三段組369ページの大部の著作。文庫本としたら三冊に相当する量は心して読み始めなければならない。
最近は映画それ自身は「メディア芸術」として括られるようになり、シネコンが良い例だが新しい歴史を始めようとしている。その基礎でもある学問としての映画学を総括的にまとめたものが本書である。古今東西、百年有余の映画の枠を超え思想史と文化運動史に及ぶ壮大な論考である。
第一部は『キネマ旬報』に連載された113話の「ガクノススメ」。そこで紹介された地名だけでも列挙しておこう。江古田、横浜、山形、本郷、京都、吉祥寺、調布、川崎、青梅、虎ノ門、早稲田、それに釜山(韓国)、長春(中国)、台北(台湾)、ボストン(米国)、ライプチヒ(東独)。69話から71話の「海軍大佐との一期一会」で書かれたチャップリンの日本人秘書のスパイ事件について、その後の研究はどう進められているのだろうか興味がある。
第二部は主として戦前の記録映画、理科教材映画の歴史に焦点を当てる。
第三部ではこれまた戦前の左翼映画運動団体「プロキノ」と京都学派。第二部と同様だが、ここに登場する当時の日本の知性群に驚かされる。評者が知っている人物は限られているのだが、それでも岩崎昶、亀井文夫、佐々元十、千田是也、戸坂潤、三木清、中井正一などなど。
終章は資料収集の努力の足跡。しかしダンボール900箱の資料は米国コロンビア大学まで出かけないと見られないのが哀しい。
なお戦前の『キネマ旬報』は、昭和2年から15年までは本書の版元である文生書院から復刻版が刊行中である。(大正8年から15年までは雄松堂書店が復刻したが現在は一部分しか入手できない)。