ヤクザ映画は好きじゃない。暴力シーンも好きじゃない。予告編を見ても、いくらお気に入りジソブの作品でもなかなか手がでなかった。でも見てびっくり、ほんとにドッキリするくらい惹きつけられた作品だった。映画は映画だ、所詮作り物、どんなにリアルに演じても現実はもっと厳しく残酷。出口のない裏社会、暴力が日常化するヤクザの世界にはまり込んだ昔俳優志望だった男、ソ・ジソブ演じるガンペと虚構の映画の世界で暴力映画に出演するうちに暴力中毒になったスター俳優、カンジ・ハン演じるスタがヤクザ映画で共演するという異色作。
よりリアルなファイトシーンのあるヤクザ映画を作ろうとするガンペとスタの体を張った挑戦が始まる。映画に出演するのはガンペにとってはしばしの現実逃避と夢の実現。ヤクザの凶暴な姿の後ろにのぞく孤独、不信、あきらめの影をジソブが会心の演技で見せる。目がすばらしくいい。スタにとっては、人間としてのめざめ、本物の暴力の真の姿との遭遇。ジハンも傲慢で傍若無人なスターから人間味のある男へと変わっていく男の姿を見事に演じきる。この二人の映画作りを通じて生まれる奇妙な友情。実におもしろい。またコミカルなシーンも巧みに取り入れられて観客をあきさせない。映画監督役もほっとするいい味出している。この映画では映画の暴力シーンと現実の暴力シーンが入り乱れてどっちもどっちのようだけれど、かたや作り物、かたや命のかかった本物、ラストシーンがその世界の違いを浮き彫りにする。ガンペ演じるジソブがいつかインタビューで「観客の血も凍るような悪役を演じてみたい」と言っていたが、まさに最後のシーンはその思い遂げたかもという凄さ。映画の暴力シーンに慣れっこのスタもガンペのその姿を見てしばし愕然。そして現実の世界では人の目がシーンを撮るカメラとガンペが言った言葉を思い知る。
一番お気に入りのシーンは激しい泥まみれのファイトシーンの後、ガンペが倒れたまま起き上がらず、監督の撮影終了のカットの声を聞いて空を見上げてほほ笑むところ。夢がかなって心残りないという清々しさがそこに見えた。バイオレンス映画好きじゃない人も見るべし。心に残るいい作品です。