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昔日の客
 
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昔日の客 [単行本]

関口 良雄
5つ星のうち 4.6  レビューをすべて見る (5件のカスタマーレビュー)
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商品の説明

内容(「BOOK」データベースより)

尾崎一雄、尾崎士郎、上林暁、野呂邦暢、三島由紀夫…。文学者たちに愛された、東京大森の古本屋「山王書房」と、その店主。幻の名著、32年ぶりの復刊。

登録情報

  • 単行本: 226ページ
  • 出版社: 夏葉社 (2010/10)
  • ISBN-10: 4904816013
  • ISBN-13: 978-4904816011
  • 発売日: 2010/10
  • 商品の寸法: 20 x 15.2 x 2.3 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.6  レビューをすべて見る (5件のカスタマーレビュー)
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56 人中、52人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By ろこ
長年探していた本を古本屋で見つけた瞬間ほど嬉しいことはない。その本だけ浮いて見えるから不思議だ。あまりの嬉しさに店主に「この本、随分長い間探していたんですよ」と話しかけると、そっけなく「そうですか」と言われるだけでさっさとレジを閉める様子は情がまるで通わずさみしい。それもそのはず、レジの人は店主でなくアルバイトの店番だったりする。ほんのつかのまでもよい、何か本にまつわる話が出来たらと思うが、思うほうが間違いのようだ。
 『昔日の客』は東京大森の古本屋の店主関口良雄氏による遺稿集の復刻版である。多くの小説家(尾崎士郎、尾崎一雄、上林暁、野呂邦暢など)や文人たちに愛されたこの古本屋「山王書房」。店主の関口氏の古本への愛情や作家たちとの交流はなみなみならぬものがある。本が好きとは言え、自前で『上林暁文学書目』『尾崎一雄文学書目』を作るのだから本好きも年季が入っている。
 時代が変わってしまった。と言ってしまえばそれまでである。大正生まれのこの店主が店を出していた頃と今では比べようもない。それは出版業界の変化もあれば、現代人の価値観の変動というものもある。インターネットの普及もある。しかし、確かにいえることはこの著者が遺稿集の中で言っているように
 「古い本には、作者の命と共に、その本の生まれた時代の感情といったものがこもっているように思われる」 

 人の手から人の手へ、古本の運命も生きている人間同様、数奇の運命を  宿している。 
 私は棚から志賀直哉著『夜の光』を抜いてきた。この「夜の光」の見返  しには、達筆のペン書きでこう書いてある。
 『何故私はこの本を売ったのだろう。キリストを大衆の前に売りつけた  ユダの心にも勝って醜いことだと私は思った。私は醜い事をしてしまっ  た。再び買ひ取った私の心は幾分か心易い感じがしたけれど、やはり過  去の気弱であった自分をあはれ者と意識せずにはおかなかった。僅かば  かりの欲望にかられた私は春雨のそぼ降る四月の或る朝、古本屋に十五  銭でこの本を売りつけたのだった。今更の様に哀愁がわく』(「古本」  から引用抜粋)

 この章は作家の沢木耕太郎も愛した文である(『バーボン・ストリート』)。古本と前の持ち主の本への愛惜の情をこれほど物語っているものはない。愛してやまなかった本とそれを手放さねばならなかった者の気持ち。これらは古本を愛するものにいつでも錯綜する気持ちだ。
 著者は古本を売る店主としてその売り手の愛惜の情を最もよく知っていた人に違いない。そして貧しい買い手の情もである。
 だからかつて野呂邦暢が郷里に帰る日、旅費と支払うべき部屋代を考えると本代が千円しかなかった。しかし欲しい本『ブルデルの彫刻集』は千五百円である。そんな事情を知った関口氏は「千円で結構です」と言ったという。
 貧しい青年であった野呂はその後芥川賞を取った。この店主との思い出を終生忘れなかった野呂邦暢が授賞式にこの店主を招待する章はこの遺稿集の最後から二つ目を飾り、最も印象的な場面でありこの「山王書房」が客にとってどんな存在であり、店主がどんな人物であったかを深い感動を持って知ることができる。
 古本屋は数多くあるが、このように本を愛し作家を敬愛し、客を思い、人との交流をあたたかく、時に茶目っ気たっぷりに生きてきた飄逸な人生を私は知らない。そんな古本屋人生を滋味あふれる達意な文で書かれた遺稿集を読むことが出来たことは望外な喜びである。23年ぶりにこれを復刻した夏葉社の心意気に乾杯である。 
 本を愛する滋味にあふれた本書を多くの人と分かち合いたいものである。
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By くにたち蟄居日記 トップ500レビュアー VINE™ メンバー
 本書を発行している夏葉社は社長一人ですべてをやられているという新聞記事に惹かれて買ってみた本だ。

 古書店というものは特殊な空間である。店主の好みと哲学がきちんと主張されている古書店に入ることには勇気と気合が必要だ。店主もこちらを見ている。自分の集めた本にふさわしい客かどうかを見極めているはずだ。本の価値を見抜く店主であるなら、客の筋も見抜くに違いない。そんな緊張感がある。

 それだけに店主と趣味や意見が一致した場合は楽しい。そこには色々な会話が成り立ち、感情が通じる。それが本書の基礎だ。

 古書店には本好きしか行かないはずだ。

 本好きにも「本が好き」と「読書が好き」と二種類の人がいる。この二つは似て非なるものだ。
 本をたくさん買うが、なかなか読めない、いわゆる「積ん読」という人がいる。これは前者である。僕自身、そのきらいがあるので、気持ちは良く分かるものだ。「本」にはそういう魔力があるからだと自分で変に納得している。

 著者も本が好きだったのだろう。本が好きではないと古書店をやるわけがない。一方、今回本書を一人で発行した夏葉社の方も、本が好きな方に違いあるまい。僕も「本好き」のはしくれだ。そんな三者が、集まって本の話をぼそぼそとしているかのような幻想も見える気がした。著者の達意の文章も楽しい。
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By 麻冷 VINE™ メンバー
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淡々として奥行きの深い文章が続き、読んでいるうちに、山あいの湖面に対峙しているような心境になる。三好達治の詩の一節が出てきて、この全編が知りたい、と調べたくなったり、店に来る花の専門家との思い出話に出てくる大山蓮華の花とは、いったいどんな花なのだろう、と気になったり、読む人を惹きつける本である。復刊に際しての亡き父を思うあとがきがまたよい。古本店主 関口良雄の書いた昔の本を、若きひとり出版社が再版し、そのあとがきを読むにつけても、本好きの文化が脈々と受け継がれているようで嬉しい。
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