この本は、学部レベルの予備知識(特殊相対性理論と量子力学)をもった読者を対象に書かれている。そのため、学部レベルの数式は使われ(1ページあたり5個前後)、タイトルから受ける印象との違いに驚くかもしれない。この本は、一般向けの解説書と、大学院生向けの専門書との間を埋めることを念頭に書かれている。構成は2部構成で、それぞれ4章よりなる。第1部では、まず経路積分の量子力学について解説し、次に場の量子化とくりこみについて解説する。次に一般相対論を解説し、最後に重力のくりこみ不可能性について解説する。第2部では、ループ量子重力理論と超ひも理論が解説される。
著者には解説の才能があるようで、びっくりするほど本質的で分かりやすい解説をする(私は、量子重力理論の分野にこれほどの解説書が現れることは期待していなかった)。例えば、第3章の一般相対論の解説にしても、わずか24ページで特殊相対論, 等価原理, ガウスの曲面論, 共変微分, 曲率テンソル, アインシュタイン方程式, 重力波と重力子について解説していて、しかもガウスの曲面論の説明があるため普通の相対論の本より分かりやすく、見事だと思った。くりこみ(群)の解説もすばらしい。私はこの本ではじめて、くりこみの心を知った(場の理論の教科書に、この説明はあっただろうか?)。この本では、重力のくりこみ不可能性についてきちんと解説されているが、この解説は他には(ほとんど)ないのではないだろうか。
この本にはループ量子重力理論の解説がある。この解説は、日本語の本ではほぼ初だろう。格子上の電磁力学の解説から入っており、分かりやすいと思う。スピンネットワークの解説は短いが、ループ量子重力理論の本質はきちんと解説されている。
超ひも理論の解説も的確である。特に、超ひも理論は「スピン2, 質量ゼロの素粒子が存在することをもって, 重力の法則が再現できると主張しているだけである. 超ひも理論に含まれるスピン2の素粒子の場が計量テンソルそのものであることを示す明確な根拠はない.」という解説は、今までにはなかったのではないだろうか。この本は、このように批判的な記述があるのが良い。私は、今村洋介『
別冊数理科学 超弦理論の基礎 2011年 01月号 [雑誌]』を読んだが、超ひも理論の言う“重力場”が本当に計量テンソルなのか? について腑に落ちないでいた。だが、この本の解説でやっと納得がいった。このようなこともあるので、一度 超ひも理論の専門書を読んだ人や、今読んでいる人もこの本を読むべきではないかと思う。
最後に、参考文献を挙げておく。ループ量子重力理論については、別冊数理科学 2009年10月号『量子重力理論− 広がる多彩な最前線 −』がより詳しい。超ひも理論については、今村洋介『
別冊数理科学 超弦理論の基礎 2011年 01月号 [雑誌]』, Barton Zwiebach, “
A First Course in String Theory” が比較的やさしい入門書である。また、『物理学最前線 3』の中西 襄 氏による「重力場の量子論」も読むと良いかもしれない。ホーキング輻射の解説は、Robert Wald, “
General Relativity”などにもあるが、日本語の、小玉 英雄ら『
物理学最前線 (12)』で十分だろう。なお、この明解量子重力理論入門では、第7章のホーキング輻射の解説が少し間違っていて、難解になっているように思える。念のため最後に一つ言っておくと、竹内 薫はこの分野の“解説”書を何冊も書いているが、彼の“解説”はどれも解説と言えるレベルのものではない。ただ数式を交えただけの“解説”書とこの本とでは、ジャンルからして異なる。