明治初期、文明開化の時代を背景に起こる様々な事件を対象に勝海舟、洋行帰りのハンサムな名探偵新十郎、剣術使いで推理マニアの虎之介の推理合戦を描いた短編集。ミステリ好きの安吾の稚気が楽しめる。
前書きにもあるように、物語のパターンは概ね次のように決まっている。
(1) 事件に出会った虎之介が自分の推理を持って、海舟の屋敷に出向く。
(2) 虎之介が海舟に事件のあらましを説明する。
(3) 即興で海舟が名推理を披露する。
(4) 現場に立ち会っている新十郎が海舟の推理とは別の解決をする。
(5) 海舟が負け惜しみを言う。
海舟の推理も、海舟が知り得た情報の範囲では中々合理的である。その推理が常に新十郎に負ける様は微笑ましく、全体として「黒後家蜘蛛の会」の趣きがある。それが、安吾独特のカタカナ混じりの文体で語られるので、肩肘張らずに楽しめる。短い物語の中で事件を錯綜させるため、登場人物がやたらと多いのが少々難点だが、安吾が本気で読者と知恵比べに取り組んでいる証しだろう。当時の世相を反映した作品も良いが、南洋の冒険譚「血を見る真珠」、囲碁をテーマにした「石の下」も印象に残る。至る所に安吾の道徳観と冷徹な人間観が出ている点も見逃せない。
書いている安吾が一番楽しんでいるかも知れない気分爽快な短編集。