リカチ著「明治緋色奇譚」は評価の分かれる、いや、もっとハッキリ言えば「評価の難かしい」作品である、
プロフェッショナルである「漫画家」は雑誌の「カラー」に合わせた、「編集部の意向」と「読者の趣向」に合わせた作風を望まれ、さらにそこにその作家にしか描けない「個性」、すなわち「魅力」が求められる、本シリーズの第一巻のあとがきによると本作を執筆する際編集サイドから出された注文は「男子版キャッツアイ」のような「怪盗物」、だったとの事で、それに対し作者は「ホームズとワトソン」のようなコンビによる「探偵物」、「舞台は明治」、というアイディアを提示したと言う。
その際編集部員も作者も「推理物および明治時代は守備範囲外」との発言をしており、すなわち本作は作者の素養と微妙に齟齬をきたす作品として最初から宿命付けられていると言えよう。
さらに本作の連載されている雑誌「BE LOVE」において本作は「恋愛枠」の役目を与えられているため、単行本表紙の帯にはその事を強調するアオリ文句がつけられている、(年の差LOVE等)
つまり本作は「売り手側」の思惑としては、「明治を舞台にしたミステリーと年の差恋愛を売りにした奇譚」というものなのだと思う。
だが残念ながらその思惑は上滑りしているように見受けられる、「明治時代の空気感」も「年の差恋愛の甘い幻想」も、「ミステリアスな奇譚臭」も本作にはあまり感じられない、それゆえこの時代をテーマに扱った作品に詳しい方々からはいまひとつ評判がよろしくない向きもあるようだ。
だがだ、作者は苦手なジャンルでも手を抜くことなく、果敢に創作に望んでいる事が本作からは伝わってくる、先ほど「明治時代の空気感が感じられない」と述べたがだからといって決して「現代の物語を明治時代に置き換えただけ」の作品ではない、この時代だからこそ描ける設定とそこから生まれるドラマが内在している、そして人物たちの立ち居地、ミステリーとしての物語、あらすじを簡潔に述べれば「とても面白そう」な印象があり、実際に読むとその宣伝された面白さのポイントとは別のところに本作の魅力があるのだ。
そして本作の幼きヒロインはまるで萌マンガのような表情もすれば往年の少女マンガのような顔にもなる、デッサン、デザインともに安定しないキャラクターなのだがそれでも他の作品のヒロインには無い魅力がある。
それは「絆」。
本作の真のテーマは「奇譚」でもなければ「年の差恋愛」でもない、人と人との縁、すなわち「絆」である。数奇な運命に翻弄されることなく前を向いて生きる少女、そしてその瞳に心を突き動かされた青年、彼らの絆の物語なのだと、だから本作は表向きの看板と齟齬をきたす作風であっても、なお魅力的であり、掲載誌の表紙を飾るほどに読者に支持されているのだ、
本作は魅力溢れる漫画作品である事は間違いない、
「愛すべき」いや、「愛さずに居れない」作品、
それがリカチ著、「明治緋色奇譚」なのだ。