著者はミステリやサスペンスを得意とする翻訳家。ふとしたことから明治・大正の翻訳事情について調べることがあり、その成果をまとめたのが本書。
取り上げられているのは若松賤子の『小公子』、黒岩涙香の『鉄仮面』、島村抱月の『人形の家』など14作品。ほとんどが有名な作品。
内容はかなり個性的。文学史でも社会史でもない。翻訳事情についての研究でもない。当時の訳書を見て、現代の翻訳家が感じる問題をテーマごとに書き綴ったものなのだ。たとえば、『小公子』なら、会話文を生き生きと訳す工夫。『ポンペイ最後の日』が関東大震災の直後に訳されたことについては、タイムリーな出版の問題。『フランダースの犬』では、ベストセラーをつくる方法。どれも面白いといえば面白いのだが、読者の関心とはずれているような気がする。
職業的翻訳家が読んだら、「そうそう、そうなんだよ!」と狂喜するかも知れない。