本書を読んで、自分があまりにも過去の日本人の暮らしを知らないことを思い知った。また、なんとなく遠い昔から続いてきた日本の伝統と思っていた事柄の大半が、明治大正のいわゆる近代になって普及したものだということも教えられた。著者は膨大な時間を費やして過去の新聞記事を読み込み、明治大正期の一般庶民の日常生活を細部にわたって再現していく。
明治大正60年間に起こった庶民の生活様式の変遷を「固有名詞をできるだけ避けて私たちの眼前に現れては消える事実のみで描き出そう」とする本書の試みは、全く新しい「常民」の社会史の試みであり、なおかつ現時点からみれば明治大正期の一般庶民の暮らしを知ることができる貴重な記録である。
ただ解説でも触れられているように、日本人の生活様式が激変した高度経済成長期以降の世代である私にとっては、意味が理解できない箇所も多々あったので、詳しい注を付けて貰えればなおよかったと思う。ちなみに平凡社東洋文庫版では、原本に載せられていた写真が転載してあり興味深い。選挙公約らしい文章が書かれた黒板を子どもたちが眺めている写真が「一等むづかしい宿題」というタイトルになっているのには思わず笑ってしまった。