読むのに骨は折れますが、西郷隆盛や勝海舟、榎本武揚の行蔵批評を通して「抵抗精神」と「潔い出処進退」の本義を説いた近代日本の名論説。今日の世相や我が身の日常に照らしても、考えさせられること大であった。
併せて収録された「旧藩情」という論説も、中津藩を題材に幕末における身分制度の卓抜たる批判として読み応えあり。これを読むと、門閥制度を厳しく批判しつつも、「武士」階級の美質にこだわり続けた彼の心根がよく理解できる。そして、畢竟その認識が彼をして「丁丑公論」と「瘠我慢の説」の二編の筆を執らせたものと思われる。
「今後期するところは士族に固有する品行の美なるものを存して益これを養い、物を費すの古吾を変じて物を造るの今吾となし、恰も商工の働を取て士族の精神に配合し、心身共に独立して日本国中文明の魁たらんことを期望するなり」(126頁)。「有形なる身分の下落昇進に心を関せずして、無形なる士族固有の品行を維持せんこと、余輩の懇々企望するところなり」(131頁)。これらなどは、今日の経済人にも正に拳拳服膺願いたい一文ではなかろうか。