SFショートショートの第一人者、星新一が父への思慕の念を散りばめつつ、明治という時代への尊敬と憧れを凝縮したような作品。それでいて、からりとした爽やかな語り口の人物伝に仕上がっている。これが文庫で通覧できる明治の側面かと思うと、改めて本当に安価ですばらしい1冊。
歴史の教科書で必ず出てくる中村正直を、初めて詳しく知る事ができた。有名すぎる野口英世、伊藤博文、エジソン。お札で有名になった新渡戸稲造の恋愛譚には驚いた。全く知らなかった弁護士、花井卓蔵の業績、はちゃめちゃな貴族の後藤猛太郎。
その他、馴染みのない人々も星新一の語り口にかかると、おじいさんが昔話をしてくれるように、身近に生き生きと感じられるから不思議である。本来伝記とはこのようにして、わかり易く親しみ易く次の世代に読み継がれ語り継がれていくものだなあという事を、実感させてくれる一冊でもある。
大人向けの、やや枯れた味わいのある歴史文学としても楽しめる1冊を、是非堪能して頂きたい。