「本能寺の変」三部作の中で最も「古き良き時代小説」にふさわしい主人公を据えた作品。本作を持って本能寺の変にまつわるミステリーは完結するのだが、種明かしのほとんどは「秀吉の枷」までで明らかになっている。本作は明智左馬助の動きを中心にして坂本城落城までのストーリーを紡ぐことによって、これまでの作品で具体的に描かれてこなかった事変の実際部分を補完することが主たる目的になっているようだ。それだけにストーリーも人間味豊かな内容になっており、最後の坂本城落城の描写は非常に深い余韻を残す。長い長いストーリーの果てにようやく「泣ける場面」が出てきた。それにしても三部作を読むことで、作者の考える「本能寺の変」が立体的に浮かび上がるように設定されているのは、多分に映画的手法であり、全て読まなければ気が済まないようにさせられるのは余りに見事と言う他ない。