理学博士である山口恒夫氏が監修し、8名の昆虫学者がそれぞれ行っている昆虫の脳の研究結果などを分担してまとめた書。わずか2mm程度の昆虫の脳には10万〜100万の神経細胞があり(それでも人の100万〜10万分の1)、周囲の風景を記憶したり、条件づけ記憶(青色の紙には餌があることなどを覚えること)、あるいは複数の物を長期間記憶できる能力とその仕組みなどを紹介している。また、神経が独立した節になっていて、6本の脚をスムーズに動かすことができる仕組みなどを解説。250ページの分量に、大きめの文字で字数を抑えてはいるが、高校卒業以上の読者が数日かけて読むような高いレベルの書。
表紙を見て初心者向けの『図解入門書』程度の軽い気持ちで購入したが、実際にはきわめて高いレベルの内容であった。したがって、昆虫の脳や行動などに興味がある読者で初心者向け入門書の購入を考えている方は、本書の前に『生き物たちの情報戦略(針山孝彦著)』『昆虫(水波誠著)』などを先に読んだ方がいいと思う(ただし後者とは重複が多い)。文字が少ないといっても分担者によって説明の難易度がことなり、『シグナル伝達』や『クリプトクロム』などの専門用語がふんだんに使われている部分などでは、理解に時間を要す。これらの専門用語には注釈がついてはいるものの、これだけで正しく理解できるかどうかは不明で、少なくとも生物学をある程度理解していなければ苦しいと思う。多くの図表も、英文論文からそのまま掲載したような詳細かつ専門的なレベルで、大学の講義で使えそうなほど。6脚歩行のメカニズムでロボットを作る話などは非常に面白いし、コオロギの幼虫が7つの物を覚え、成虫になるまで記憶が保持されることなどに驚かされる。
個人的には星5つの満足度で安い買い物だったと喜んでいるが、表紙を見て中高生が購入しても高い理解度が得られるかは疑問である。また、参考文献が提示されていないデータや図表もあり、この点はやや完成度を欠くため、他人への推奨度は星4つとした。