内容紹介
幼少期から1921年までの初期毛沢東の教育思想形成過程を、現在利用可能な資料に可能な限りあたって実証的に明らかにしようとしたもので、審査委員一同高く評価した。使用した資料には、著者が毛沢東の故郷や出身学校まで調査に赴いて収集したものも含まれ、その資料的価値は高い。また、1921年までに形成されたと著者が考える早期教育思想の特徴を1)「独立富強」2)「平民教育」3)「三育並重」4)「工学並行」の4つとしてまとめ、それぞれの形成過程を丹念に跡づけた点に本論文の独自性があり、これも高く評価した。とりわけ、幼少期の私塾での教育の実際については、これまで毛沢東研究の文脈ではほとんど詳細に検討されることがなく、当時の教育史資料や、同時代人の回想などを駆使して、毛沢東が幼少期に受けた教育の実態を明らかにした点は価値が高い。さらに、デユーイからの影響が、従来の毛沢東研究で思われてきた以上に大きく深いものであったことを、彼の教育者としての実践の検討を通じて示すことができた。そして、湖南自修大学の実践についても新たな見方を提示した。
レビュー
日本僑報社推 薦 の 辞 宮原 修(元お茶の水女子大学大学院教授) 毛沢東は20世紀後半の世界の中心にいた人物といっても過言でないだろう。「毛沢東思想」といわれるものは世界各地の人々に影響を与えた。そしてそれが20世紀後半の歴史を動かした。言うまでもないが、毛沢東の「主戦場」だった中国はこの間大きく変わった。そして毛沢東が亡くなった後の中国は米国に並ぶ21世紀の超大国になりつつある。この「超大国」中国は毛沢東が目指した「共産中国」とは別物なのだろうか?毛沢東が現在の中国を見たら何と言うだろうか?結局のところ、毛沢東個人が求めていたものとは何だったのだろうか?毛沢東に直接聞いてみたいが彼はもういない。われわれは毛沢東についての研究をとおしてそれを聞くしかない。いささか個人的な問いを発してしまったかもしれないが、毛沢東及び「毛沢東思想」はいまだ世界的な賛否両論のなかにあり、その実像は必ずしも明確でなく、世界史、中国史の中での評価が定まるのもこれからの研究に依ることになるだろう。 鄭萍さんの本研究書は、そのような問いに対する一つのヒントを与えてくれる研究だと私はみている。本書は、毛沢東が1893年に生まれてから1921年の間(早期)に、どのような生い立ちと体験や経験をもったか、そしてそのなかからどのような考え方(思考・思想傾向)を形成したか、特に、若き毛沢東が教師としてまた学生として考え実践した「教育」とはどのようなものだったのか、そこで生み出された毛沢東の「教育思想」とはいかなるものであったのか、などを追求した研究書である。教育学的に言えば、人間は幼い時に体験したことを一生覚えているし、幼い時、若い時に考えたことを意識的か無意識的かは別にして一生ひきずって生きるものである。人間毛沢東もたぶん例外ではなかったろう。ということは、毛沢東の28才以後の実践や思想のなかに、本書で明らかにされた毛沢東の幼児期、少年期、青年期を通して形成された「教育思想」の「痕跡」が見出されるのではなかろうか。それを明らかにすることが、人間毛沢東や「毛沢東思想」の実像や歴史的意義を明確化することにつながるのではないだろうか。それは、毛沢東の「早期教育思想」と中期、後期の「毛沢東思想」とされるものとの連続と非連続を追求することでもある。本研究書によってそのための足場がしっかりと築かれたのである。鄭萍さんにもこれから是非そのような研究に取り組んで欲しいと私は期待している。