日野啓三氏の文筆生活四十年の魂の軌跡が、年代順に自己編纂された傑作エッセイ集。
通読して思うことは、氏は様々な領域から世界を考究し続けますが、その論考は様々な書物からの影響に加え、寧ろそれ以上に、氏の実体験(引き揚げ、焼け跡、廃墟、ベトナム、都市、癌など)にて感じ経験したことが核になっており、終始一貫した普遍的でリアルな軸が存しているということです。
過去の膨大雑多な文章から、自らの思索、生き方に、何らかの決着を着けるべく選ばれたという本書のエッセイ総てから、氏独自の、正に「魂の光景」が感じられ、読んでいて、優しくなったり、懐かしくなったり、温かくなったり、或いは眉間に皺を寄せていたり、カオスを感じたり、眼から鱗が落ちたり、不意に背筋がゾクッと震える感触が過ったり、色々と味わえます。
氏のエッセイ集は多く出されていますが、その入り口として本書は最適であり、お勧めです。本書をまずは読むことで、その後色々なエッセイ集を読んでいくうちに、ああ、これは確かベストエッセイ集で読んだことがあるなあ、という感覚が味わえるからです。氏は、「焼け跡」という戦後の、「物が物でしかない」というネガティヴなようでポジティヴな、世界は一切が虚無という真理を、幼少期に体験し、終始それが人生の核たる部分として残っていたようですが、それでも、いや寧ろそうであるからこそ、氏の書く文章からは、安直な意味合いではない、本質的な世界や文明に対する「愛」というものが感ぜられ、その冷たく優しい筆致が、私を魅了して止まないのだと思います。