出版されたのは2010年、鳩山政権による普天間移設方針をめぐってまさに日米安保がきしみだしていた時期であり、その混乱はまだ収拾されていない。そして必ずしも表面的な収束が両国関係、また東アジアの安定に寄与するものではない。
本書の論文の執筆者は日本人以外にロシア、中国、韓国、台湾と幅広く、「安保堅持」から「発展的解消」まで、多様な議論が偏りなく掲載されている。国籍として一方の当事者である米国人による論文が無いのだが、この点はアメリカ人以上にアメリカの立場にたった日本の論者が幾人かいるので十二分にカバーされているだろう。本書の構成が素晴らしいのは、様々な議論を淡々と編んでいるためにかえって議論の緻密さや優劣が明確になっている点であろう。日本の主張をアメリカに伝えるための新たなチャンネルを模索する具体的な取り組みについて、その成果を含めて報告する在米研究者(岩下明裕)の視点が捉えるのは、固定化した狭い日米関係専門家のサークル内で行われてきた旧来の政策決定システムからの脱却である。そのような旧来のシステムが綻びかかっていることは、昨今アメリカ議会において、普天間基地の辺野古移設が実現不可能であることが、日米両政府による再三の方針確認の頭越しに議論されていることでも明らかになりつつある。一方、旧来のサークルに属する論者による議論は、映画「硫黄島からの手紙」のシナリオや童謡「青い目の人形」のエピソードなどを持ち出して、甚だ「文学的」ではあるのだが、どこまで現実を押さえた議論かといえば、非常におぼつかない印象を受ける(櫻田淳)。一言でいえば全く説得力に欠け、これが「国際政治のリアリズムだ」といわれれば噴出してしまいそうだが、世間では彼の立場を「現実主義」と呼んでいるらしい。
少なくとも鳩山前首相が語った「抑止力は方便」という言葉について、揚げ足をとるような批判しかできない状況は末期的であり、そのようなシステムはそう先が長くないと、本書を読んで改めて認識を深めることができた。