昔、坂野潤治さん(当時は黒髪が似合って颯爽として
いました)に、福沢の「脱亜論」について話しを聞いたこ
とがあります。当時注目されていた見切り発車説に疑問
を呈し、清仏戦争の結果と清国の軍事増強への警戒に
よるとして、清国の軍艦整備の状況を具体的に数字を挙
げて反証していました。確かにこの時期に関しての客観
的な論証は、これまで不十分だったと思います。その点
では、「日清戦争を軍事史として描く」(「あとがき」)本
書は、それだけでも意義あるものといえます。
ただし、読み通すのは大変でした。それでも、陸奥外
交の虚構を暴く序盤は、田保橋京城帝国大学教授の研
究が黙殺された経過の記述と合わせて、興味深く読め
ました。ところが、陸戦の経過、特に「3 清国領への進
入」は、地理的ななじみがないせいもあり辛く感じまし
た。陸戦用の各種火砲の違いを辞書で調べながら、や
っと前に進めました。あまり深入りせず、本書も古典的
名著としてあげる藤村道生『日清戦争』(岩波新書)あ
たりで留めておくのも、ひとつの手かもしれません。
なお、前掲書の日清戦争の局面把握に台湾への武力
侵攻を加える本書の立場には賛成です。本書の最後に、
この経過が書き込まれたことは、意味のあることだったと
思います。