最早この映画は解説不要、というくらいに伝説の作品となってしまった。
映画の前半部分はギャビン・ライアルの「深夜プラス1」を大胆拝借(要人護送、アル中の相棒、そして何といっても銃がモーゼル!)。殺し屋たちのランキング争いを、シュールでスタイリッシュに描いた傑作。
脚本クレジットの具流八郎は、清順監督を中心にした脚本家集団。鈴木清順、田中陽造、大和屋竺、木村威夫、榛谷泰明、岡田裕、曾根中生、に飛び入り用の空席(山口清一郎との説もあり)の八人である。中心になったのは大和屋と曾根と田中の3人という。しかし、これにさらに映画評論家の石上三登志と森卓也の2人が殺しのテクニックなどの「アイディアマン」として参加。あの有名な「水道管逆流撃ち」のアイディアは石上三登志が出したという説も。10人分のアイディアがつまっているんだから、面白くない訳がない!
この映画が日活アクションの中で最も有名な作品になった背景には、'90年代のムーブメントがある。いわゆる「シブヤ系」ブームの中でサブカル系ライターの方々が熱心に紹介した事と、あと海外の監督たちが続々この映画への「リスペクト」を表明したことだ。ホウ・シャオシェン、ウォン・カーワイ、ジム・ジャームッシュ、アレックス・コックス、クエンティン・タランティーノ・・・etc,etc
この映画が、クリエイターたちに与えた影響はあまりに大きい。ジャームッシュほどの、独自のスタイルを築いている監督までが『ゴースト・ドッグ』の中で臆面もなく「水道管撃ち」をパクッてしまっているくらいだから。しかも「ずっとこれがやりたかったんだ!」と言わんばかりに嬉々として。
アニメ監督の押井守作品では、モーゼルがよく出てくるが、押井氏がモーゼルオタクになったのは、この映画の影響だ。
また、かつて関西で放送されていた「DRAMADAS」というドラマ枠で、大和屋竺氏が出演もした『ぬるぬる燗々』という、居酒屋を舞台にしたシュールなコメデイードラマがあったのだが、この主題歌が、本作の『殺しのブルース』のパロディ替え歌なのである。
出だしのところだけ紹介すると、
オリジナルが
♪〜「男前の殺し屋は、香水の匂いがした・・・」
『ぬるぬる燗々』では
♪〜「男前の酒飲みは、いつもツケだった・・・」
という具合。
さらに影響は映画界に留まらない。去年出版された、『真夜中のギャングたち』という、ギャングやヤクザ映画のワンシーンを彷彿とさせる、ブラックユーモアたっぷりの短編小説集。この著者のバリー・ユアグローはタランティーノにも負けないくらいの日本映画オタクだ。清順の『殺しの烙印』『野獣の青春』ほか『仁義なき戦い』も大好きだという。
筆者が以前、年下の友人にこの映画を薦めたところ、みな例外なくハマってくれた。宍戸錠がごはんの炊ける匂いにエクスタシーを感じる、というシュールな設定なども面白くてしょうがないようだ。
そのアヴァンギャルドすぎる内容で、「理解不能」と日活の社長に清順監督がクビにまでされてしまった本作は、世界を股にかけて、軽々とジャンルもメディアも世代も飛び越えてこれからも多くのクリエイターたちに影響を与え続けるだろう。
『殺しの烙印』は永遠に不滅だ。ビバ!清順!!