白昼堂々、紙幣印刷用の透かしを入れた10億8千万円分の紙を運
ぶ車が、何者かに襲撃、強奪される。そのニュースを知った抜け目
ない犯罪者たちが、さっそく蠢き始める。ガラスを擦る音に弱いガラ
スのジョー(宍戸錠)、すべてを確率で計る計算尺の哲(長門裕之)、
押しの強いダンプの健(草薙幸二郎)の三人は、それぞれ、贋幣の
名人、坂本老人(左卜全)に接触して、彼を紙を強奪した連中に売ろ
うとする。お互いを出し抜き、最後に笑うのは誰なのか…?
都筑道夫の原作「紙の罠」を鬼才、中平康が監督した傑作犯罪ア
クション・コメディ。第2次日活ダイヤモンドラインで晴れて主演に昇
格、斎藤武市監督の『ろくでなし稼業』3部作(1961〜1963)で、そ
のコミカルな面を引き出された宍戸が、本作でも、お調子者のろく
でなしキャラクターを生き生きと軽妙に演じている。ガンマニアの婆
さんを演じた武智豊子は、喜劇王エノケンの「カジノ・フォーリー」に
も参加したコメディエンヌの重鎮。
日活アクションのプログラム・ピクチャーは、そもそもが無国籍で、
何でもありという体裁だが(それが、良識ある映画評論家からは、
さんざん叩かれたわけだが)、中平監督は、それをさらに深化、純
化させ、いわば、日活無国籍アクションのパロディとして、遊び心
とユーモアを満載して、本作を嬉々として演出しているようにみえ
る。登場人物を極度に漫画的に動かし(動き、セリフのスピード)、
テンポのいいリズミカルな編集で、トントンと話を進めるあたりは、
話を単なる素材とみなし、画のフォルムや語りのスタイルにこそ
重点を置く中平監督ならでは。話ももちろん面白いが、語りの律
動こそが何より本作の魅力といえるだろう。ほとんど、音楽を聴い
て(観て?)いるような心地良さだ。
出演陣が、適材適所で愛さずにはいられない造形だ。中平監督
の漫画的な演出によって、人間臭さとは無縁で、どちらかというと
人形のように扱われているが(ただし、小津作品の登場人物のよ
うに無機的ではなく)、それぞれが弾けた演技で楽しいことこの上
ない。主要3人の好演はもちろんのことだが、やはり、紅一点の浅
丘ルリ子の可愛らしさは絶品。犯罪者たちに交じっても、全く物怖
じせず、喜怒哀楽を表し、くるくると変わる豊かな表情が実に印象
的だ。
「モダン」だとか「ポップ」などという形容をする必要もない、時空を
超えた痛快さと楽しさが贅沢に詰まった、いつ観ても、誰が観ても、
決して古びることがない日活プログラム・ピクチャーの傑作なので
ある。
本DVDは、日活創立100年(2012年9月)を記念し、「日活100周年
邦画クラシックスDVD」シリーズの第1弾として、初DVD化(おまけ
に廉価)された映画ファン待望のもの。HDテレシネ(おそらく、ロー
コントラスト・プリントから)、レストアされたという宣伝通り、キズは
一切なく、色合いも深みがあって実に素晴らしい画質。音声も明
瞭だ。
唯一残念な点があるとしたら、計算尺の哲の身体的特徴を表す
用語が、(現在からすると)差別用語ということで、2箇所で音声が
消されていること。市販のパッケージ・ソフトで、こういった対処は
いただけない。パッケージ裏にも、「言葉の表現において今日で
は不適切と思われるが、(中略)当時上映された内容のままでご
紹介しております」と記されているだけに、なおさら不思議だ。も
しかしたら、2010年にWOWOWで放映された際の音声カット版
マスター(HDCAM SR 60iあたり?)を流用しているのかもしれない。
その点が不満なので、星4つ。
特典には、予告編と「日活100周年邦画クラシックスDVD」のPV
が収録。同梱の映画評論家・佐藤利明氏による解説は、初めて
本作に触れる人には、基本的な情報として役に立つだろう。