体裁はハンデイだが本書の中身は決して軽くない。
こういう良書が突然刊行されるから新書はあなどれない。
SF評論家長山靖生氏が同人誌『未来趣味』等に発表してきた原稿を土台に、今回殆ど書き下ろしたようだ。
我国のSF観史を、文化の発展と照合しながら多彩な書誌情報を交えつつ紹介。
明治の黎明期、ジュール・ヴェルヌ翻訳本の多さに改めて感心。押川春浪・海野十三・山中峯太郎らおなじみの面々はもとより、賀川豊彦・幸田露伴のように
意外な人がSFに関与しているとも。
また、昭和に入り探偵小説の時代にはその中にSFも包含されるとはいえ、小酒井不木が『アメージング・ストーリーズ』誌に触発されSF専門誌を発行する計画があった事や、
著者が夢野久作の数作をSFと捉えている点が面白い。戦後、江戸川乱歩の本格物推奨に対し海野十三が物申しているので「二人は対立したのか?」とあるが、
海野は乱歩に心酔していたからこれは単に彼なりの業界への警鐘と見るべきだろう。
探偵小説の中でも防諜スパイ小説の類は、幾つかの例外を除くと敗戦後アンタッチャブルの憂き目を見ていて読むのが全く困難。
本書を通読していると、今後そんな長編の復刻を欲する気持が強まる(変なナショナリズム的意味じゃなく)。
そういう闇の部分も歴史の一面であって、意味はあると思うのだけど。