この書名ですぐ思い浮かぶのは、明治の国粋派志賀重昴だが、関係はない。
本書は「水の記憶」「穴の記憶」「島の記憶」「像の記憶」というように自分の旅した風景の記憶を整理したもので、とっつきやすい紀行文集になっている。日本各地を旅した見聞と思索であって、堅苦しい論文ではない。風景論とはいえ、「つねに人とのかかわりから風景をとらえていく」のが著者のねらいである。書く上でのルールは設けず、地図的な客観性と絵図的な主観性を対象に応じて書き分けているところがいい。
本書のカバーは富士山の秀麗なカラー写真。巻末の文章は「山麓徘徊…山」(日本国 富士山)「この国の風景は地図よりもむしろ夢想のなかにある」「いつ迄も見ていると、美しく見えなくなってしまう」ことに気がつく。