日本でまとめられた仏教説話集の上巻。原本自体が全体を上中下に分けているので、この点構成的には原本に忠実なつくりになっている。もともとは全文漢文で書かれていたのを、平安初期の言葉で訓読し、書き下している。地の語感を生かした書き下しで、語釈も豊富に設けられているので読んで地の感じを味わうのと共に意味も把握できる。加えて現代語訳も付いていて、話の終わりには解説まであって説話を論評していたりもする。一気に読み通すには若干不便だが、その文章をいろんな面から味わうにはとても使える文庫だと思う。自分ははじめ図書館で一通り読んでからこの文庫を選んだのだが、これはいい編集だと思う。
内容については、第一話がいきなり面白い。天皇陛下と皇后陛下が愛し合っておられるところにやってきてしまった家臣、その家臣に雷を捕まえろと命じる天皇陛下、実際に捕まえて天皇陛下に奉る家臣、何か、とても味わい深い。というかこの話のどこに仏教が関わってくるのかが不思議だし、仏教説話集の筆頭にこの話を取り上げたのは一体どういうわけなのかを考えるのも面白い。その後からは仏教の関わる説話が続くが、話の中には儒教色の強いものもあり、道教的な味付けのものもあり、「古事記」から伝わる民間伝承の風味のものもあり、著者が付会しようとする仏教の図式そのままでない部分にこそ面白みが多くあるように感じる。
上巻は全三十五話。雄略天皇から聖武天皇の御世までの説話を収録している。後の今昔物語集、宇治拾遺物語などに形を変えて用いられた説話も多い。貴族の手になる物語に比べてとっつきやすい語り。