たまたま入った書店で出井伸之氏の新書が目にとまった。140頁に満たないコンパクトな小著であるが、出井氏らしい大胆な発言が盛り込まれ、読者を決して飽きさせない。たしかに「世界同時好況」といわれても日本だけは蚊帳の外にいるような印象があり、日本がどのような国家を目指してゆくべきか、現時点では必ずしも明瞭ではない。長年ソニーのトップとして世界経済の動向を肌で感じてきた出井氏は、「共に価値を創り出す」という意味を持った「共創」資本主義への移行を強く推奨している。むろんそれは「競争」それ自体を否定するものではないが、多様な思想・価値観の共存を尊重する心的姿勢が顕著に現れている。「平和国家」・「環境国家」「文化国家」を志向するという発言も、考えてみればごく自然な内容であるが、重要なのは、それを強力なイニシアティブを発揮してどのように世界にアピールしうるのかということであり、日本はその実行能力が問われているのである。第4章の「見えてきた2020年の日本社会」での数々の将来像も、こうした内容に疎い私からみれば大胆すぎる印象は受けるものの、全体としては実に示唆に富む内容であると思う。出井氏が創設したクオンタムリープという社名のもとになっているのは、量子力学における「連続線上にないジャンプ」を意味するそうだ。たしかかつての著書『非連続の時代』にもそのようなことが書かれていた記憶がある。優れた経営者は、的確に時代の動向を読む能力があるに違いないが、彼はそうした経営者の代表的人物なのであろう。大胆な発想はそうした能力と豊かな経験によって生み出された所産である。「これからの日本」を真剣に考える人たちにとって本書は有益で刺激的な一書となるに違いない。「本書はまさに、日本という国とその国民に向けたエールのつもりで書きました」(138頁)という筆者の言葉を最後に噛み締めておきたい。