本書は、日本語の具体例に基づいて丁寧に書き進められている。一見して学問的に危ない記述がなく、整っているとも思う。しかし、認知言語学の入門書としてはお勧めできないというのが、率直な感想である。
本書の「まとめ」には、「典型的な類義表現の意味の違いは、言葉が指し示す対象(の特徴・性質)には求めることができず、あくまで、対象を人間がどう捉えるかという認知能力を想定してはじめて明らかにできることであり、認知言語学が最も力を発揮するテーマの1つです。本書を通して、このことがわかっていただければ、著者としてこれ以上の喜びはありません。」とある。一読者としてもこのことが知りたくて、期待して読んだ。
しかし、本書で示される具体例は、認知言語学が日本で認知される以前から日本語学の世界で指摘されていた事例がほとんどであるし、人間の認知能力を想定したからと言って体系的に捉え直された印象もない。むしろ、もし知識のない読者が読んだら、こうした事例があたかも認知言語学の出現によって捉えられたかのような誤解を来す危険性もある。
認知言語学、より広い意味での認知主義的な見方によって、おもしろい言語事実が発見される例もある。入門書であるから、そのような新たな事実の発掘までは求めないとしても、少なくとも紹介さえなかったという点で、「まとめ」にある筆者の意図は貫徹していないように思う。