本書は1943年生まれの日本語史・擬声語研究者が2006年に刊行した、一般向けの古代から近代までの日本語通史であり、話し言葉と書き言葉のせめぎ合いという観点から、各時代の特色を出す形で、即ち奈良時代は文字(漢字の借用による和語表記の開始→異言語の隣国から文字を借りたことによる和語表記の困難)を中心に、平安時代は文章(仮名文字の発明による多様な文章表現法→漢字カタカナ交じり文体の発生)を中心に、鎌倉・室町時代は平安古典文法の変容(武家社会化、論理化、連体形による終止形の吸収を背景とした、係り結びの消滅に注目)を中心に、江戸時代は音韻と語彙(江戸町人層の台頭による、近代語の形成)を中心に、明治以降は近代国家の形成を背景とした言文一致問題を中心に、具体的な例文を挙げながら、できるだけ現象の起こった原因にまで立ち入って、日本語の変容過程を論じている。その上で著者は、現在の日本語にとっての課題として、表現の豊かさの反面たる煩雑さの存在を指摘し、日本語話者一人一人がこの問題と自覚的に取り組むべきことを主張している。本書は非常に読みやすく、興味深い事実も多々掲載されており、きわめて面白い本だった。他方、「日本語」の強調からも推測できる通り、日本国内の言語的多様性(諸々の「方言」の存在)の問題は、少なくとも正面から論じられてはいない(散発的には出てくるが)。また他言語との比較も、他言語の歴史を踏まえた上で体系的に行っているようには見えないのだが、どうだろうか。