日本近代において美術行政、美術評論、日本画の再生など、国内のみならず国際的な活躍をした、岡倉覚三(号 天心)による日本美術史他数編の著作集。書名にもなっている「日本美術史」は、正確には著作ではなく、天心の東京美術学校の美術史講義の生徒による筆記が、その死後まとめられたもの。
現在まで数多い日本美術史の中で本稿の最も特異なのは、単なる歴史的な叙述ではなく、「新たな日本美術の創造」が念頭に置かれている点。近年、美術史の再考が盛んに行われており、本書の汎アジア的思想が槍玉に挙げられることもしばしばである。しかしながら、「新たな日本美術の創造は歴史的理解を通してこそなされるはずである」という信念によって書かれている本書は、袋小路に入っているかのような現代の美術及び美術史の再考という観点から見るべき点が多い。
また、天心独自の鑑識眼に基いた歴史観、作家の良し悪しといった主観が垣間見られるのも本書の魅力の一つである。科学的客観性が尊ばれる現在の美術史研究の中でほとんど見られない「筆者の肉声」がふんだんに盛り込まれており、天心の強い美意識と自信が強く打ち出されている部分は新鮮に感じられ、今日の美術史研究者にとっても学ぶべき部分と言えるのではないだろうか。
美術史に関心を持つ人に広く読まれるべき好著。巻末の解説も、やや偏った視点ではあるが参考になる。是非本書をきっかけに、他の天心の著作にも目を通して欲しい。