本作で小松左京氏が真に描こうとしたものは、拠るべき国土を失うことで世界の孤児とならざるを得ない民族の悲しみと絶望、そしてその後の過酷な流浪の姿だった。
その国土喪失の理由を地殻変動による日本列島の崩壊・海没としたわけだが、そのスケールの大きさゆえに筆がなかなか進まず、そうする内にも様々な社会情勢の変化で次々と加筆・訂正を余儀なくされ、結局列島沈没までを「第一部」とした本書の上梓に9年という月日がかかったと、'73年の映画公開の頃、某メディアで氏が語っていたのを覚えている。
それだけの年月と工数をかけただけに、その内容は緻密かつリアル。それまでは地質学上のごく専門的な知識だった「プレートテクニクス理論」や「マントル対流」などといったものが、本書をきっかけに一般に広く知られる様になった。
また、当時高度経済成長期真っ只中で様々な分野に大きな影響力を持ち始めていた日本という国が無くなる事により生じる、世界各国間のパワーバランスの変化とそれをめぐる駆け引きがリアルに描かれているのが、今読み直しても非常に興味深い。
災害描写も生々しい。直接描写の部分もさることながら、災害による交通網の寸断で生じる物資不足とそれによる混乱など、今回の震災で実際に起こった様な状況がそこかしこにちりばめられ、そのリアルさにある意味慄然とさせられる部分も多い。40年前にこういったものを描き切った氏の分析力・筆力には驚愕せざるを得ない(巨大地震で首都高が崩壊する場面は、出版当時ある識者からあり得ないと批判されたらしいが、残念ながら阪神大震災で実際に起こり得る事が証明されてしまった)。
3月の震災による深刻な影響がまだ色濃く残るいま、この作品について賛否両論が出るのは仕方ないだろう。だが同時に、今だからこそという考え方もあると思う。シミュレーション小説としても秀逸な一面を持つこの作品、未読の方へは「未来への警鐘」としてご一読をおすすめしたい。