聖書では旧約がヘブライ原典の用語法の分析により主にエローヒム資料とヤハウィスト資料より成立することが解明されたり、新約での四福音書・使徒行録、書簡等の文書相互の関係や述作者の特定が進んでいる。本書は本邦の日本書紀の成立をその漢文表記を精緻に分析し、渡来人によるα群とそれを書き継いだ倭人によるβ群による合作だと結論づける。記紀が編纂された頃の日本語は、現代よりも母音や子音が豊富で、それに合わせて主に固有名詞の表記で漢字が明確に使い分けられた。また漢字音も倭人や朝鮮半島の渡来人が使用していたものや、中国人が直接持ち込んだものが混在していた(漢音・呉音等)。だから渡来中国人が書く文章と、中国語に不慣れな倭人の漢文が自ずから異なったものになるのは当然である(漢文に倭人に特徴的な誤用・変用が現れる)。著者は、日本書紀を森にたとえて、先住の倭人と渡来人の共同作業のあらましにひとつの結論を与えている。