「日本は他アジア諸国と異なり、植民地化されることなく、近代化を成功させた。それは何故か?」という明確な課題設定の下に、歴史を経済・文化・社会の複合的なダイナミズムとして捕らえ、西欧・アジア・日本相互の多面的な関係性を解き明かしながら、新しい視点・解を提示していく手腕は見事である。
一般的に、日本の近代化の成功要因は、「江戸時代に育まれた文化の高さ」及び「日本人の勤勉さ」とする論説が多いが、川勝氏は、室町〜戦国期における日本と西欧の社会・文化の共通性から、議論をスタートさせる。
当時、西欧も日本もインド・東南アジアとの物産の交易を盛んにし、類似の経済文化を作り出していた。交易の源泉となる金銀を、日本は国内生産(世界で唯一の貨幣素材自給国)し、西欧は新世界より調達という相違はあったが。
その後、西欧は植民地化政策により、資本集約・労働節約的経済圏を構築して行った。一方、日本は西欧と同様の物産社会を維持しながら、鎖国政策に転向。国内金銀資源の開発、国内産業の振興により、自立した資本節約、労働集約的経済社会を構築して行った。
方法は異なるがこの同類の経済・社会・文化を持った2つの世界が、幕末に出会う。
近世〜明治期の日本経済は、アジア社会における物産交易手段を一貫して掌中にしており、他アジア諸国と異なり、物産を買いうべき立場にあった。これが、日本の近代化成功の要因である と氏は説く。
論旨の明快さ、記述の分り易さが相俟って、実に面白い。
後半(2部)の「唯物史観と生態史観」では、氏は自らの歴史観を説く。経済は、「生産」ばかりでなく「消費」に着目すべき。近代において、「経済力+軍事力」=「富国強兵」は唯一無二の近代化方法論ではなく、近世日本は「軍縮・平和主義文化」+「勤勉・循環型経済社会」を近代化に先駆けて構築した。ここに学ぶべきものは多いと説く。
1部と2部の繋がりが希薄で、一冊の本としてやや纏まりを欠く面はありますが、歴史・経済に興味ある諸氏には是非一読を薦めます。