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日本思想史新論: プラグマティズムからナショナリズムへ (ちくま新書)
 
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日本思想史新論: プラグマティズムからナショナリズムへ (ちくま新書) [新書]

中野 剛志
5つ星のうち 3.6  レビューをすべて見る (19件のカスタマーレビュー)
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商品の説明

内容説明

日本には秘められた実学の系譜があった。『TPP亡国論』で話題の著者が、伊藤仁斎、荻生徂徠、会沢正志斎、福沢諭吉の思想に、日本の危機を克服する戦略を探る。

内容(「BOOK」データベースより)

幕末の危機に際して、優れた国家戦略を構想した会沢正志斎。尊王攘夷を唱えつつ、抜本的な内政改革を訴えた彼の『新論』はけっして無謀な排外主義ではなかった。むしろそのプラグマティックで健全なナショナリズムに学ぶべきところは大きい。正志斎の思想の秘められたルーツを伊藤仁斎、荻生徂徠の古学に探り、やがてその実学の精神が福沢諭吉の戦略思想に引き継がれていることを解明。隠された思想の系譜を掘り起こし、現代日本人が求めてやまない国家戦略の封印を解き放つ。

登録情報

  • 新書: 236ページ
  • 出版社: 筑摩書房 (2012/2/6)
  • 言語 日本語
  • ISBN-10: 4480066543
  • ISBN-13: 978-4480066541
  • 発売日: 2012/2/6
  • 商品の寸法: 17.2 x 10.6 x 1.8 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 3.6  レビューをすべて見る (19件のカスタマーレビュー)
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102 人中、89人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By モト
 中野剛志さんの『日本思想史新論』を読みました。日本思想の健全性を明確に論じており、面白くてためになります。
 先に、二点だけ違和感を覚えたところを述べておきます。
 一つ目は、構造改革批判として、p.18で〈世界第二位の経済大国の地位からも陥落した〉と述べている箇所です。構造改革が批判されるべき事柄であることには同意しますが、その根拠に経済大国からの陥落を言うのはあまり宜しくないと思います。国民数や国土面積や鉱物などを含めた国家条件を考えるに、日本国家が世界第二位以上の経済大国でい続けることは、メリットよりもデメリットの方がはるかに大きいと思われるからです。
 二つ目は、伊藤仁斎について、p.74で〈仁義礼智は厳密には定義できないし、すべきではないというのが仁斎の考えであった〉と述べている箇所です。私には、これは間違っていると思えるのです。人倫日用を重んじる仁斎は、多角的に言葉を捉えようとしているのだと思います。例えば仁については、『童子問』には〈仁は愛を主として、徳は人を愛するより大なるは莫し〉とあり、『語孟字義』には〈道とは、天下の公共にして、一人の私情にあらず。故に天下のために残を除く、これを仁と謂う〉とあり、『古学先生文集』には〈仁は愛のみ。けだし仁者は愛をもって心とす〉とあります。これらの意見を総合的に視ることで、仁という言葉を明確に指し示すことに成功している、と私には思えるのです。
 
 次に、論理構成として素晴らしいと思えた箇所を以下に挙げてみます。

<p.85>
 多くの現代人が「これこそ、これからの正義の話だ」と有難がって読んでいると知ったら、仁斎は苦笑したのではないだろうか。
<p.181>
 それを単なる封建反動としてしか解釈することのできない後世の学者たちは、プラグマティックなセンスにおいてはもちろん、国民国家という政治秩序に関する理論的な理解、さらにはナショナリズムがはらむ危険性に対する洞察においても、正志斎よりはるかに後れているのである。
<p.200>
 子安の解釈は、福沢諭吉と会沢正志斎の双方に対する根本的な誤解に基づくものに過ぎないのである。

 上記の文章は、ここだけ読んでも何のことか分からないと思うので、是非本書を読んで前後の文脈を確かめてください。見事な論理展開、およびこの結論の妙味を味わうことができると思います。

PS.
 本書の批判として、『文明論之概略』と『帝室論』『尊王論』では、福沢諭吉の皇統に対する考え方が変わっているのだという意見がありますが、間違っています。p.198の〈王室の連綿を維持し、金甌無欠の国体をして〉という文章は、1874年のものであり、『文明論之概略』は1875年の刊行だからです。

<追加>
 本書に対し、「仁斎・徂徠が「プラグマティズム」などという言葉・「今言」を全く知らなかった事実」を持ち出して批判している意見が出ているので、間違いを指摘しておきます。
 言語学用語に、意味しているものである「シニフィアン」と、意味されているものである「シニフィエ」の区別があります。記号と意味の区別と言ってもよいですし、中野さんは「言葉と言葉が指し示す対象」と述べています。
 荻生徂徠は『弁道』で、〈今文を以て古文を視、しかうしてその物に昧(くら)く、物と名と離れ、しかるのち義理孤行す〉と言い、〈礼楽刑政を離れて別にいはゆる道なる者あるに非ざるなり〉と述べています。「物」とは具体的な文物や制度などであり、「名」とは道などの抽象的な名称のことです。徂徠は、今の文章理解によって古文を読むため、物と名が合致せずに理論だけが先走っていると批判しているのです。シニフィアンが同じでも、シニフィエが違うと言っているのです。
 一方、中野さんは、実学とプラグマティズムは、シニフィアンが違っていても、シニフィエが同じだと言っているのです。
 両者とも、シニフィエの次元で意見を述べているのです。それを、シニフィアンが違うとトンンチンカンなことを言って批判している気になっている人がいます。本書を読んでも内容が理解できておらず、徂徠を読んでも内容が理解できていないと言わざるを得ません。
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83 人中、72人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By ふんふん トップ100レビュアー
 いま、日本にとっては「幕末」と「敗戦」に続く「第三の開国」の時代がやってきたのだ!というような話はあちこちで語られており、直近ではTPP参加交渉問題でも盛んに謳われていた。
 この背景には、ステレオタイプと化した一つの歴史観がある。「日本社会というのはもともと非常に封建的で、前近代的な因習をかたくなに固持する傾向があり、国際社会の変化から常に取り残される『閉じた社会』であった。しかし幾度か訪れた西洋からの外圧によってようやく『開国』し、『開かれた社会』へと成長してきたのである。そしてこれからのグローバル化の時代においても…」というストーリーである。
 こうした歴史観を、著者は「開国物語」と名付ける。「開国」という言葉は、日本人にとってはもはや一種のイデオロギーとして脳裏に深く刷り込まれていて、TPPの場合もまさにそうだったが、この言葉を添えられると何となく誰もが反対しづらい空気になってしまうのだ(笑)。

 本書は、この「開国物語」という病的なイデオロギーを克服するための手がかりを日本思想史の系譜の中に求め、水戸学の尊王攘夷論、とくに会沢正志斎の『新論』に着目するものである。いきなり「水戸学」だの「尊王攘夷」だのと言われても戸惑う読者が多いだろう。一般的には、「右翼」とか「国粋主義」といった、内向きで後ろ向きなレッテルを貼られがちな思想だからだ。著者自身も、本書のアプローチを「おそらく最も過激と思われる手法」だと断っている。
 しかし、著者の解説を読んでみると、水戸学の尊王攘夷論というのは、当時の国際情勢を可能なかぎり冷静に把握した上で、右翼チックな教条(ドグマ)にとらわれることも全くなく、あくまで現実的な実践として打ち出されたビジョンであったことがよく分かる。
 そして、国を開いて外人の言うことを聞かなければ日本人は一人前になれないのだという「開国物語」とは違って、あくまで自律的・主体的な判断を重ねてきた先人たちの思想の歴史が存在するということが理解できるのである。

 著者は会沢正志斎の『新論』の解釈を通じて、江戸時代の日本に、西洋でいえば「プラグマティズム」に相当する確固とした哲学の基盤が存在したことを明らかにしている。
 伊藤仁斎から荻生徂徠へ連なる「古学」(儒学の一派)の系譜が、会沢正志斎らの水戸学に影響を与えているらしいが、この「古学」というのは、朱子学の極端な合理主義(静態的で抽象的な、机上の空論としての理性中心主義)を根本的に批判するものであった。そして、ダイナミックな現実をありのままに見つめ、具体的に実践や経験を重ねていくことを重視する「プラグマティズム」(実学)の哲学を生み出して、これが水戸学へとつながり、さらには明治維新後の福沢諭吉へと継承されていくわけである。
 このプラグマティズムの哲学を土台として、当時の国際情勢を冷静にみきわめ、現実的な国家戦略として尊王攘夷論を打ち出したのが会沢正志斎で、幕末の志士たちを大いに鼓舞したわけである。そして、開国後においてその実践主義的なビジョンやセンスを受け継いだのが福沢諭吉であった。福沢といえば、歴史の教科書では開明派・進歩派として扱われているイメージがあるが、彼の著作を実際に読んでみれば西洋の典型的な保守思想家に近いことが分かるし、大胆な尊王攘夷論の継承者でもあったのである。
 というか「尊王攘夷論」というもの自体が、歴史の教科書では閉鎖的なイメージをもって語られているものの、実際には単に「国家としての自立が大事である」と言っているだけの極めて健全な思想だったのだ。「民族自決」は戦後の国連の基本的理念の一つでもあって、誰も否定することはできないだろう。

 本書で語られる思想史は教科書的なイメージとは異なるものだが、かなりの説得力があって面白い。しかも(著者がもともと専門としている)西洋の政治経済思想とも比較しながら整理されていて、日本の思想史も、近代性という意味においてまったく馬鹿にできないものだということがよくわかる。
 また、日本思想の本というと、漢文調の古い日本語で書かれた引用文がたくさん並んでいて読むのが疲れるものも多いのだが、本書においてはその種の引用は最小限で、著者が平易に解説してくれているのでとても読みやすい。おすすめです。
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40 人中、32人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
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 著者の中野剛志氏は「TPP亡国論」で名を馳せている経済産業省出身の官僚であるが、本書は開国論の幻想を指摘したものである。氏は素人ながら(素人だから大胆に議論できる)よく文献を読み、明確な議論を展開している。しかし、全体として何を言おうとしているのか、その発端は何かがよく見えない。私なりに解釈したい。
 日本は明治維新、敗戦、TPPが議論されている現在と3度目の開国が迫られいるが、開国論は幻想に過ぎないと氏は主張する。そもそも徳川幕府は「避戦・開国」で、明治政府は「攘夷・開国」を唱えており、鎖国か開国かの選択ではなかった。戦後の政治も徳川幕府同様に「避戦・開国」であったと唱える。鎖国か開国かの誤った選択を設定するから、議論がおかしくなるというのだ。むしろ、攘夷こそ幕末・維新期の精神の中核であったと大胆な仮説を提唱している。開国物語の敵が尊王攘夷論という捉え方は間違いである。
 氏は攘夷思想の歴史を伊藤仁斎、荻生徂徠、会沢正志斎、福沢諭吉の系譜に求める。攘夷はそもそも中国を源流とする朱子学が発展した古学である。古学は実学という日本の伝統的なプラグマティズムが脈々と流れている。古学は国体を大切にし、近代の国民国家の萌芽を形成しているとまでいう。
 日本は未曽有の危機に面しているが、それは国体の崩壊が原因であって、開国が未完成だからでははない。開国という論点で議論しても問題は解決しない。
 会沢正志斎は水戸学派の学者で、右翼の思想とされてきたが、虚心に戻って日本の実学の系譜を学んでみるのも悪くはない。日本の危機を思想面から考え治したいという方々に推薦できる本である。
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