ともに1965年生の編者によってまとめられた日本思想史の入門書。日本思想史は、特定の思想・宗教にとらわれず、日本に展開した思想を歴史的に取り扱って研究するが、この分野でこうした一般向けないし研究の手引書が出版されたのは初めてではないだろうか? 充実した内容と丁寧な構成で、広くおすすめできる本に仕上がっている。
執筆者も多数が1960〜70年代生で、「日本」や「思想」を語る言葉がようやく古臭い枠組みを脱して更新されたと感じる。ミネルヴァ書房の『概説日本思想史』が詳細に書き込まれた大学教科書レベルなのに対して、この本は最新の研究成果を盛り込みつつ、このシリーズの2〜4ページのテーマ記事形式により、誰でも手軽に読み進められるようになっている。
しかも、時代ごと(古代・中世/近世/19世紀/20世紀)のテーマ記事だけでなく、冒頭に「日本思想史の切り口」という記事を7本置いて、通時代的に思想史を読み解いているのが意欲的だし、学問としての面白さを伝えている。
また、編者2人が64冊の「ブックガイド」を執筆しているが、記事との重複を避けながら、堅実な学術書はもちろん、山本七平や梅原猛、見落としがちな名著や科学史までカバーしている。私も世代が近い人間として読書歴の共通性を感じるし、学問的な誠実さ、研究者としての良心が伝わってくる。
むろん残された課題はあるが、それは日本思想史全体に関わるし、編者自身もそれについて触れている。例えば、京都を中心とした文化圏の中世後期以来の「心」を磨く学問伝統と徂徠学との衝突(p93)、などについてである。私見では、そこに「朝鮮心学」(p101)や、近世後期の「理学」の展開という筋道を補強することで、近世〜19世紀の思想史研究は厚みを加えることができると考えるが、今後の研究の進展が待たれるところである。
こうした良書の出版が研究の機運を盛り上げてくれることを切に望む。