1955年生まれの農学博士号を持つ文化庁主任文化財調査官が、2009年に刊行した日本庭園史の通史。日本庭園は縄文時代の祭祀空間に起源をもち、古墳時代までには州浜、石、水がその構成要素として登場していた。飛鳥時代には、先進的な造園技術が百済からもたらされ、幾何学的平面形の池、その護岸の石積み、精巧に加工された石造物から成る庭園は、饗宴や儀式の場としても使用された。続く奈良時代には、唐の庭園情報に影響を受けながら、曲池、州浜の護岸、自然石の景石・石組から成る、日本独自の様式をもつ庭園のデザインが確立され、上級貴族や寺院に庭園が普及する。そして続く平安時代には、景勝地別荘庭園、寝殿造庭園や浄土庭園が現れ、最古の作庭書が書かれるに至る。他方で鎌倉時代には、禅宗の下で境致(伽藍一帯の自然・人工の優れた景観)への強い意識が見られ、室町時代には水を用いず石組を主体に自然景観などを象徴的に表現する枯山水が成立した。戦国時代には、将軍邸を模範とする庭園が全国各地につくられる一方で、茶道の発展と共に露地が普及し、書院造の建物内での着座位置の固定化と共に、書院造庭園がつくられた。これらの露地、伝統的な池庭様式、枯山水技法を組み入れた総合庭園様式である、回遊式庭園が成立したのが江戸時代であり、庭園は観光の対象として庶民の興味をひくに至り、案内書も出版され、公園も整備され始めた。しかしこうした従来の庭園文化は、明治維新の結果沈滞する一方、欧米風庭園や、象徴的手法から脱した自然主義風景式庭園が新たに台頭してくる。著者は伝統技術の継承も含めて、歴史的文化資源としての日本庭園を次代に継承発展させていくことの重要性を指摘して、本書を締めくくる。本書は興味深い本ではあるが、広義の庭園を念頭においたためか論点が拡散している感があり、各様式間の関連性も私には分かりにくく感じられた。