外国人による開国後日本の紀行文は数あるが、バードのこの作品は代表的な物として著名。
明治11年日本を訪れた彼女は従者一人を連れ、
江戸から日光、鬼怒川から会津、新潟、山形、秋田、青森、北海道へ至る。
現在の国道に比定するならば、
R4⇒R119⇒R121⇒R49⇒R113⇒R13⇒R7⇒R5⇒R36⇒R235⇒R237
というルートが最も近いと思われる。
鉄道導入期にあった当時の日本では道路整備は後回しにされていたと言われており、
特に山間僻地での道路状態の酷さについて、バードはつぶさに触れている。
その一方で、三島県政下にある山形県内で囚人使役による道路改修が行われていた事、
北海道での札幌本道整備過程の様子が記述されている事など、細かい記述も見落とせない。
また当時の山間部の衣食住・衛生状態・文化について、
日本人では気づかない面についての記述があり、史料価値は高い。
特に印象的なのは日本人の物見高さで、初めて白人女性を見た人々は群をなして
”見物”し、将棋倒しで怪我人まで出る始末。
彼女の泊まる宿の障子の穴から、無数の目が覗いていたという記述も面白い。
北海道の平取まで足を伸ばした彼女は、アイヌコタンにしばらく留まり、その生活を記録している。
義経神社に関する記述と、当時のコタンコロクルと思われるベンリの微妙な応対に、
何事かを示唆する物があり興味深い。
明治激動期にある日本の奥地までつぶさに描いた紀行は多くはなく貴重。
素直な彼女の好奇心が読者にも伝わり、紀行文としては記憶に留まり易い著作と言える。
この作品の一節が引用されることが多い事からも分かるように、
国内紀行作品の中では必ず押さえておくべき一冊である。