第1章の「日本国憲法四つの神話」というタイトルからすでに挑戦的だ。護憲派の人々はがっかりするかもしれない。彼らが強調する世界で唯一の平和主義憲法というのは誤りで、なんと124カ国もの憲法が平和主義条項をもっている。
意外だったのは、日本国憲法は決して新しくはなく、15番目に古いのだそうだ。確かに、1950年代以降、第三世界の大半の国々が独立を果たした。つまり100を超える国々が、つい最近、憲法をもったことになる。しかし、45年に発足した国際連合の原加盟国は50カ国程度だったはずだ。だとすれば、それらの国々は、必要に応じて憲法を改正してきたということになろう。
改正論議は、発布当時から行われてきたが、ついぞ、公にその是非が議論されることはなかった。党の方針として憲法改正を謳ってきた自民党でさえ、積極的には活動しなかった。それどころか、94年、自社さ政権の村山内閣が発足する際、自民党は社会党に対して憲法は守ると約束した経緯がある。自民党も本気ではなかったのだ。
著者の指摘する現行憲法の欠陥を知れば早期の改正が必要だと思うに違いない。第9条に加えて、国会や、司法の規定にも著者は疑問を呈している。私は集団的自衛権だけでも早期に何とかしてもらいたいと思う。国会での周辺事態法の論議にあきれ果ててしまったからだ。
どのような後方支援が集団的自衛権に抵触しないか、重箱の隅をつつくような話ばかりで、有事の際に日本の安全をどう守るかという肝心な論議がなかった。政府が従来、集団的自衛権を有するが、憲法の制約により行使できないという、不思議な解釈をしてきたためである。
それほどの曖昧さを含んでいるのであれば、「集団的自衛権を行使できる」と、だれもがわかる書き方に変えるべきだろう。それをせず解釈改憲を続けることは、護憲派の疑心暗鬼をつのらせるだけだ。国のあり方を議論するためにも、安全保障については国論が統一されたほうがよい。
本書で唯一私の考え方と異なるのは、前文の評価である。国際協力について講演するときに、私は前文の後半の「自国のみのことに専念するのではなく…」のところを、よく紹介する。聴衆の多くは、この部分を知らない。日本製でなくとも、良いものは良いのである。
(慶応義塾大学教授 草野 厚)
(日経ビジネス1999/6/28号 Copyright©日経BP社.All rights reserved.)
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様々な問題について、各国の憲法と比較しつつ論を進めていきますが
従来の比較憲法で重視されていたアメリカ・ドイツ・フランスに限らず
20世紀に独立を果たしたアジア・アフリカ諸国などの憲法も
検討対象とされていて、それらの国際比較データは参考になります。
(紙面の限界がありますが、足掛かりにはなると思います。)
著者が巻頭で引用しているジェファソンの言葉は全く正当で
人間の作品に完璧はありえず、しかも社会は刻々と変化するから
常に憲法を見直す姿勢は忘れてはならないことだと思います。
そのための手軽な一般向け資料としては評価できると思います。
憲法学者以外の方が書いた一般向け憲法論も数多く出版されていますが
ほとんどは、従来の憲法学説や判例などについて無知です。
本書は、学説・判例もある程度紹介されています。
もっとも、著者の信条が前面に出すぎて、強引すぎる記述も見られます。
教育権などを論じた人権論の章は読むに耐えないほど強引で
はっきり言って、なかったほうがよかったと思われます。
日本国憲法の問題点(必ずしも著者の挙げる問題提起がすべて妥当とは思えませんが)を
強調するあまり、アンフェアな記述もあります。
例えば、著者はドイツ型の憲法裁判所の導入を主張していますが
アメリカ型のの司法裁判所の現代的展開は紹介していません。
故宮沢俊義教授についての記述は、あまりにも安易な推論で
故人について十分な根拠もなく「自己欺瞞」とレッテルを貼るのは
いかがなものかと思います。その点はかなり残念です。
特に憲法についてのしっかりとした本を読んだことがない場合は
日本国憲法の問題点だけを強調した本書だけではなく
憲法学の全体を概説した本も併せて読んでみる方がよいと思います。
本書の特色として挙げられるのが日本国憲法を他の国の憲法と比較しているという点だ。この国際比較によって平和主義という理念が程度の差はあるにしても多くの国で採用されているということや日本国憲法の成立は世界的に見てかなり古いということなどが明らかにされている。こういった国際比較によって見出されたポイントは憲法改正ということを考える上でも非常に重要なものであると考えられる。
さらに、筆者は国際比較だけではなく憲法の成立過程を振り返ったり、憲法の内容を検討したりすることによって、日本国憲法に内在するいくつかの問題点を提示している。こういった作業を通して見出された問題点を考えることも憲法改正ということを考える上では非常に重要なことであると思われる。
ただ、残念なのは日本国憲法の問題点を強調するあまり、人権と教育の問題に関する議論を初めとするいくつかの無理のある議論が見られる点だ。しかし、このような難点はあっても本書が指摘している日本国憲法の問題点は憲法を考える上で見過ごしてはならないものであることに変わりはない。改憲が必要であるかどうかについては意見が分かれていると思われるが、本書は改正に賛成の人にとっても反対のひとにとっても憲法を考えるための良い材料を提供してくれていることは間違いないだろう。
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