本書は、『新憲法の誕生』(1989年出版、1995年中公文庫収録)の20年ぶりの改訂版である。旧版は吉野作造賞を受賞しており、本書は大幅加筆の「決定版」だというが(裏表紙解説)、その内容はというと、率直に言って、私には満足のいく改訂とは言えなかった。
この岩波版では、巻頭に序、巻末に索引及び憲法制定年表が新たに付されており、索引と年表は評価できる。しかし「序」には初っぱなから間違いがあるし、肝心の改訂も、天皇と第9条の問題がやや加筆されたが、それ以外の部分は、章や節の分割、修辞上の変更などが殆どで大きな変化はなく、旧版の誤りも訂正されていない。
新たに公開・発掘された資料の扱いにも問題が残る。特に文末脚注では差し替えがなされているのに、本文中では古い資料のままの部分とそうでない部分とが混在しており、誤った情報を伝える。この問題は、著者も叙述に力点をおく第9条に関する部分に顕著であり、意図的なものが感じられてならない。
本書は旧版同様、総じて実証性の高い研究であり、一読の価値があることは確かである(護憲派に特有の教壇啓蒙主義的な臭いが鼻につく方は、西修教授の研究と併読するとよいだろう、ただこっちはこっちでアレだけど)。しかし20年ぶりとしては、改訂の成果が余りに少なく、(行を詰めたとはいえ)旧文庫版よりも頁数が少ないというのは大変な肩すかしだった。やや厳しいが、この点で星一つマイナス。また、既述のように意図的とも捉えられかねない杜撰な作業が含まれており、この点でも星を減らさざるをえない。
個人的には、「知的誠実さをもって憲法に向き合おうという読者」(裏表紙解説)には、20年前の成果であることを理解した上で旧版を読むことをお勧めするが、一般の読者には、このような問題はどうでもいいことかもしれない。とりあえず避けて通れない本ではあるんだけど、なんだかなあ。