「壬申の乱」はその後の数百年の日本の歴史を動かすエネルギーとなったと言われている古代の一大事件である。本書はこの顛末を天智天皇、(後の)天武天皇、藤原鎌足の3人の登場人物に絞って描いたもの。戦闘自身はアッという間に終ってしまうので、そこに至る過程を描いたものである。大友皇子は顔を出さない。
主人公は天武である。天武は広い度量、寛容、忍耐、策謀に秀でた男として描かれる。一方、天智は老境の秀吉を思わせるかのように、猜疑、偏狭、峻烈な男として描かれる。全く対照的で、天武が後継者になる事は自明だった事を強く示唆する。また、鎌足は既に老境にあるが、相変わらず日本随一の智恵者として描かれ、天武も一目を置き、二人の間には交流があった事も記す。更に謎に満ちた天武の出自として新羅の皇族の子孫とし、父との出会いの場面も用意する。天武の出自に関しては、それだけで一冊の本が書ける程で、作者は新羅皇族説を選んだ訳だ。
「壬申の乱」が天武vs大友皇子の戦いだったのではなく、天智vs天武の兄弟(かどうかは疑わしいが)の確執だった事を想像力豊かに描き出した歴史絵巻。