複雑系科学では「初期条件の設定」が重要とのことですが、
著者の初期条件設定に多くの誤りが存在します。
例えば:
1)「親魏倭王」という称号の存在を無視した前提。
2)虚構である「太公望呂尚」を実在した人物として扱う。
奴国は越に滅ぼされた呉の人々が建てた国、
邪馬台国は徐福が起源となり、
出雲の高志勢力は楚に滅ぼされた越の民だったと著者は主張します。
しかし、それならば何故そのときに文字は伝わらなかったのでしょうか?
呉が滅んだ紀元前5世紀頃、
あるいは徐福が発った(とされる)紀元前3世紀頃、
倭に漢字が伝わった痕跡はありません。
そもそも、『史記』は中国最古の「史書」ではありません。
さらに焚書以前の記述には誤りが多いのです。
商王朝の甲骨文字や周王朝の金文から明らかです。
金文によって太公望呂尚は実在していないことが分かります。
(徐福の話も碑文など他の史料に記述がなく創作とするのが有力)
また、中国や朝鮮半島の正史が記すように倭は文化大国です。
特に魏にとっては「親魏」という称号の通り、
倭は政治的重要度の高い国でした。
文献上「親魏」という最上級の称号を受けた国は、
一大文化圏であった大月氏(クシャーナ朝)と倭だけです。
世界で最初に土器を発明し、既に水稲を栽培していた縄文文化、
それを継承した倭を侮り過ぎです。
Y染色体はこじつけですが、邪馬台国の位置検証は評価します。
誰もが一度は行っている検証ですが、
それを文字にして出版するのは価値あることだと思います。
確かに日本の人文学界は閉塞的で非科学的です。
ただ、同じ反人文系の立場であっても
長浜浩明『日本人ルーツの謎を解く』の方が断然科学的でした。
(Y染色体についてもこちらの方が科学的かつ論理的)