平成23年から120年前の明治24年、上野〜青森間が全通したのだそうだ。明治15年の埼玉県川口での着工式からわずか9年後のことであった。著者は東北新幹線の新青森開業を見届け、この平成23年に本書を出版したかったのだという。
明治24年9月1日に青森駅で行われる開通祝賀会に向かうため、上野発青森行きの一番列車に乗り込む日本鉄道の奈良原社長の回想から本書は始まる。
東北地方を縦貫する鉄道の必要性を説く岩倉具視らの活動と、その岩倉が名付けた日本鉄道会社の設立、また川口での着工から上野や高崎へ、また大宮から分岐して一路青森へと建設は進む。行く手には未開の原野や山岳・河川、鉄道反対派の妨害や軍のよこやりなど、様々な困難が待ち受ける。
民間会社である日本鉄道と、所轄官庁で建設も日本鉄道から一括受託している鉄道庁との、連携しながらも各種方針をめぐっての確執なども織り交ぜながら、青森開通までの建設の経緯がドキュメンタリー調に語られる。ドキュメンタリー調というのは、この手の歴史本はとかく歴史事実を淡々と書き連ねる物が多いなかで、本書は登場人物同士の会話シーンが多く、その人の出身地や年齢なども「鹿児島出身、当時36歳」などと載っていてその人物像を想像しやすく、まるでその場に立ち会っているかのような臨場感がある。
国に金が無いため華族の資金を利用して鉄道整備を自分達の意向通りに進めたい政府と、株主(華族)への配慮から安く早く出来るルートで早めに成果(配当)を出したい会社の立場の違いなど、現代社会にも通じるものがある。
読む限り「日本鉄道の野望」という題名ほど、会社に独善的な野望は感じられない。むしろ東北地方に縦貫鉄道を敷くのだという使命感に近いものはひしひしと感じられる。唯一野望らしいのは、「高崎〜敦賀・新潟・秋田線、門司〜長崎・熊本線を建設する。」という岩倉演説とそれを受けた「日本鉄道」という社名くらいであまり具体的な記述はない。
明治39年の日本鉄道買収国有化後の東北本線等の歴史については簡単なポイントのみに留めているので、その後については「
東北・常磐線120年の歩み」などを参照すると良いだろう。