本書の帯には、著者のこれまでの研究の結実たる「精神バランス論」を世に問うとある。
著者によれば、本来、個々人の「心」は、「精神」と「身体的習慣」に支えられ、それらとバランスがとれてはじめて生き生きとしたものとなる。
ここで「精神」とは、共同体が伝統的に培ってきた集団的な「心」のあり方である。社会学などでいういわゆる「エートス」に近いものともいえよう。「身体的習慣」とは、武道やスポーツ、職人の手仕事、生活習慣などのなかで、反復やリズムによって培われる身体的構えといってよいであろう。
戦後の日本社会では、個人主義的価値観がはびこり、個人の「心」が偏重され、「精神」や「身体的習慣」がないがしろにされてきた。そのため、鬱の症状を訴える人や、落ち着きのない子供、こらえ性のない若者が蔓延するようになった。
著者は、戦前までの日本人が伝統的にもっていたはずの強い「心」のありようを回復するために、「心」偏重を脱し、「精神」や「身体的習慣」の重視を復興する必要性を訴える。
以上のように述べると、なにやら抽象的で小難しい本のように感じるかもしれないが、本書の記述は、非常にわかりやすい。また具体的な方策も数多く示している。たとえば、「素読」のすすめ、昼休みにバレーボールをする会社のような一体感ある集団の見直し、身体感覚の大切さに気付かせる簡単な体操の提案などである。
本書は、著者がこれまで多くの著作で追い求めてきた身体論の中間的まとめというところだろうか。2時間程度もあればスラスラと読めてしまう簡単な本であるが、戦後日本社会が失った大切なものを思い起こさせてくれる。
大変良い本だと思う。