ある個人が持つDNAの特定の組合わせは、過去にも将来にも2・3世代しか続かないが、母親から子供に伝えられるミトコンドリアDNAのDループと呼ばれる部位と、父親から息子へ伝えられるY染色体上のDNAはほとんど変化しないため、これを用いたヒトの系統的研究である分子人類学が最近になって脚光をあびている。本書によると、今まで基本的差異とされてきた皮膚の色による区分(白人・黒人・黄色人種)は、遺伝子的に見ればわずかな違いでしかなく、現生人類(ホモサピエンス)は、20〜10万年ほど前のアフリカの一女性に始まり、6〜7万年前になりやっとアフリカを出て世界中に拡散していったそうだ。
特に興味深かったのは、日本周辺におけるY染色体とミトコンドリアDNAの分布状況を比較すると、ミトコンドリアでは、日本本土の現代人のDNAは朝鮮半島・中国北部と似ているのに、Y染色体では両者の間に大きな差があるという点で、その答えとして著者は、男女間の子孫の残し方の違い(男性の場合は有力者が多数の子孫を残すことがある)に注目する。例えば、チンギス・ハンに由来するY染色体を持つ現代人はなんと1600万人に達するという推測もあり、朝鮮半島・中国北部の現代人のY染色体には歴史時代の武力征服者のDNAが多数記録されているそうだ。逆にいえば、日本列島では縄文時代から弥生時代への移行が平和的に行われ、その後の歴史時代にも大規模な征服がなかったことを物語っているようです。やはり日本は「和」の国なんですね。