著者は、国際政治と日本の外交政策を縦横に論ずるとともに、近現代における隠されたインテリジェンス戦争を掘り起こすことで我が国の読者の政治的理解能力を深めてきた。この書物は、著者が2008年に京都大学で行った「現代国際政治」の講義録であるが、国際政治のみならず、近代から現代に至る欧米と日本の歴史を例に、自由闊達に様々な角度から分析してみせる。読み終えた読者は、自分がそれまでとは異なる深い視点から歴史を理解できるようになったと感得するであろう。
国際政治学には、「リアリズム」と「理想主義」の問題がある。著者は、H.モーゲンソーの言葉を引用しながら、「リアリストは、むしろヒューマニスティックな動機から、真実を指摘せずにはいられないのだ」と説く。そのために、「人間性が悪い」と言われても、各国の隠された政治的意図や戦略を見抜き、国益を守るために主張することは当然であるとする。一方、「理想主義者」は、その美辞麗句の裏側にしたたかで狡猾な意図を隠していることが多い。アメリカ大統領W・ウィルソンなどその典型的な例と思われるが、著者は、啓蒙専制君主として名高いプロイセンのフリードリッヒ大王が類を見ない「マキャベリスト」であることを分析して、国際政治に於ける「理想主義」的言辞を無批判に信ずることの危険性を語る。
また、読者は、この講義録によって、「第一次大戦」が、歴史的には大きなターニング・ポイントになっていたことに気づかされ、驚かされることだろう。欧米は、第一次大戦を経験することで、少なくとも判断の広がりと深さを持った。次の大戦で同じような間違いを繰り返したとしても、国家の生き延びる術については何かを学んでいるのである。
著者は、文明についての大きな見方から、歴史の小径に落ちている忘れ物の発見にいたるまで、読者を倦かすことがない。平易な言葉で語られた、しかし読者の思考回路を刺激してやまない優れた書物である。