国際政治学者、そして特にアメリカ事情に精通する藤井厳喜氏が、最も得意とするだろう「アメリカ・ウォッチング」という分野について、本格的に取り組んだ傑作でしょう。
氏のキャリアの集大成とも感じさせられる、アメリカそのものを、歴史的にも文化的にも、本当に多角的にバランスよく、「一般書」の形体で表現する。
著者の著作を何冊か読んできた一読者として、「意外」とも感じたのは、想像以上に、藤井氏が長年、幅広いアメリカ取材を続けてきたという「厚み」についてであり、改めて感心させられた。
それは、俗にいう「保守系」といわれる政治学者、あるいは比較的それに近いと見られているジャーナリスト等で、アメリカに個人的なパイプがあるとされる人達は、だいたいが「ワシントンの特定派閥の議員」特にネオコン系なら、ネオコン筋に極端に限定された人脈をベースに、取材し、情報が集められ、またそれを分析して組み立ててゆくというレポーターが「当たり前」とされてきたからである。
また逆に、環境派など、市民運動のウォッチング、最新情報に詳しい人は、環境左派や特定の有名NPOなど、彼らの周辺情報を中心に、「これがアメリカの最新ニュースだ」として、伝えることが多い。これは「それで当たり前、当然だ」ということに読者は強制的になれさせられてしまってきたのだが、「本当にそうした日本語情報を、日本で読んでいるだけで、真にアメリカという国を的確に把握する事ができるのだろうか?」という問題意識を、プロローグ、出だしを読み始めた段階で、ズシリと突きつけられ、ぐいぐい引き込まれていった。
藤井氏のアメリカ・ウォッチングの面白いところは、
徹底的に冷徹に、広い立場の数多くのアメリカを有りの儘に観察すると同時に、それぞれの立場、目線で、取材を重ね、長年付き合ってきたところにある。
本の後半で書いてあるように、ワシントンやニューヨークなどの日本人誰もが知る中心的な大都市のエリートから観るアメリカだけでなく、メキシコとの国境近くや農業地帯で出稼ぎで働くエスニック・グループが支える現代アメリカ・・・そして彼らの母国語であるスペイン語でのごくごく普通の庶民が語る日常会話から見えてくるアメリカ、
レディーガガ等のアーティスト、そしてその周辺の人達、産業が発信するアメリカ、
ウォールストリート、ベンチャーキャピタリスト、スーパーリッチな個人投資家が動かすアメリカ、
消費者運動などで戦う市民運動系左派の人達の目線から観るアメリカ、
アメリカの労働組合の人達が伝えるアメリカ、
貧困層の庶民、草の根保守、リバタリアン、そして軍司令部、あるいは軍にかかわるごく普通の軍人の立場から観るアメリカ・・・、
あるいはそれらを日本人、外国人はどう観ればよいのか??理解の手がかりとなるのか?
等々を、淡々と、各章のテーマを通じ、見せてゆく。
この厚みや、圧倒的な幅の広さ、著者自身のアメリカと関わってきた人生なしには書けない、重厚さが、全く今までになかった、「新しいアメリカを考える本」に仕上がっており、
あまりの内容の濃さとボリュームにかかわらず、一気に、引き込まれ、読みました。
一度、このように、誰かに、「こういう大きな地図、関係図があるよ」とザックリと全体見取り図を造ってもらってから、多数のアメリカ情報に接していれば、もっと自分なりの解釈や分析が、自由にできたのではないか?と思わされます。
この書は、アメリカを物凄く知っている、長年アメリカで仕事をしているという人にも、改めて読んで欲しい本だと思います。
特定業界や都市に詳しい、知り尽くしたというような人であっても、自分とは全く違った分野、イデオロギーなど、幅広く「違っていて多様なアメリカ」を知ることにより、付き合い方・発想をより柔軟で戦略的に進化することが出来ると感じられたからです。
超最先端の情報、そして今後の予測、更に未来のアメリカとの付き合い方、防衛法を考える為にも、
アメリカ研究のガイドブックとしても応用できる本書を、活用し続けたいです。