ビジネス書ばかり読んでいると、そこから得られる知的刺激から満足感を得ることは多いが、
時々無性に、よりダイレクトな情緒的感動を得たいと思うことがある。
本書は正にそうした欲求に応えてくれる本であった。
「感動を与える本」とされるものには、タイトルや帯に書かれた書評から感動の期待が膨らみ過ぎて、
いざ読んでみた時の実感としての感動が薄らいでしまうものも多いが、
本書は期待に反することなく、自分の心の深いところから自然と感動が湧き上がってくる感じがする。
これは著者の水谷氏のジャーナリズムは「知」ではなく「情」を愛する媒体でいいとする「哲学」が、
ぶれることなく、かつ、気負うこともなく、読者に真摯に語りかけているからだと思う。
最初の社説から涙腺が緩んだ。この話には「いのちをいただく」ことの大切さと共に、
一緒に育った牛と別れる少女の切ない思い、おじいちゃんが孫に抱く愛おしさと牛を手放すやるせなさ、
坂本さんの仕事に対する真摯な姿勢、息子が父に寄せる純真な信頼、牛の目から流れる涙など、
わずか4ページの中に、たくさんの感動を自然と引き出してくれるメッセージが埋め込まれている。
終章の「車内コンサート」も、さりげなくも巧みな状況描写と展開に引き込まれながら、
結婚した姪のために歌う純朴なおじいさんと次第に心を開く乗客の双方に自然と感情移入ができ、
読むほどに胸の真ん中が温かくなってくるようなエピソードだ。
今回掲載された41の社説からは、涙が自然とこみ上げてくるものだけではなく、
事実はそうだったのかと再認識させられるもの、新たな視点を与えてくれるものなど、
様々な感動を得ることができた。
あとがきの「読んでいると、何でか分からないけど、人生が豊かになる」というのは真実だと思う。