近頃、昭和史の本ばかり読んでいる。悲しいことだが、どの本も参考になることばかりだ。
本書は、社会を暗く覆いつくた「日本ファシズム」「日本イデオロギー」を断罪する知的反抗の書である。唯物論の立場からの知の限りを尽くす本書の論文を理解するには、ある程度、哲学や同時の状況の予備知識が必要であり、決してすらすらと分かるものではないかもしれない。しかし、どの論文も、現実の思想状況の入念な分析と、真摯な思考に裏付けられた渾身の文章であることはすぐ分かると思う。文章自体は、明晰であり、悪文の類ではないと思う。また、マルクス主義の用語がたくさん用いられているからといって、教条的なところは微塵もない。
よく考え抜かれた知の持つ力に対して、何も疑っていない著者の姿勢は感動的で大いに励まされた。
どこも素晴らしいが、私が驚くのは、批判対象を簡単に理解させてしまう表現力である。例えば、批判を始める前に、西田哲学がどういうものか1頁くらいで説明しているところや、高橋里美の哲学をユーモアを交えて要約しているところなど圧巻だ。
本書の背景をてっとり早く知るには、冨山房百科文庫で出ている『近代の超克』を読むのがいいと思う。少なくとも私には大いに役立った。これに併載された竹内好の論文もたいへんな名論文だ。
かくて『日本イデオロギー論』と戸坂潤の名前は私には忘れ難いものとなった。忘れても問題のない世の中であったらどんなにいいかとも思う今日この頃であるが。