秀著です。日本・台湾・中国の思考様式の差異や、抱える矛盾・苦悩について、これほど真摯で地に足の着いた議論は少ないでしょう。中国人の思考様式、中国のこれからの狙い、その中での台湾の位置づけを理解するうえでは是非、読んで置きたい一冊です。
著者は単湾に生まれ、1987年に交流協会奨学生として来日、東大医学部を修了した後、栃木県で医師として活躍されています。同時に、世界台湾同郷会副会長、日本李登輝友の会常務理事などの台湾独立に関わる会の役職を兼務されています。本人曰く、反日教育を受けた戦後世代だそうですが、日本への留学・地域医療への関与を通じて、日本の実態を非常に的確に捉えています。
意外なのは、「日本に心理的にも地理的にも近い台湾人さえ日本像を正しくとらえていないことを、日本に来てから痛感した(P. 1)」ということです。台湾人の対日感情は一般的に良いと聞いていたからです。しかし、「日本統治時代を経験した世代は日本に対して一種の文化的郷愁を持ち、そのフィルターを通して日本を思っている。一方、私のような戦後世代の台湾人は学校で中国人と同じ目線に基づく反日教育を受け、歪んだ日本観を持っている(P. 1)」との解説に納得しました。この感覚は戦後世代の日本統治世代に対する感覚の一側面を表しており、やがて、親日感情が消えてしまう可能性を危惧させます。
著者の観察眼は鋭く、日本人に対する指摘にも考えさせられます。「(栃木県今市市での小学児童殺害事件を受けて)こういう事件が起こると、学校では決まって全校集会を開き、子供たちに命の尊さを説教する。しかし、これは異様な光景だ。被害者になっていたかもしれない子供たちに、命の尊さを説教するということにどういう意味があるのだろう(P. 107)」。著者はそういう日本人を「無知」と評しますが、日本人もその指摘を真摯に受け入れるべき時期にきています。