最近、日本の財政破綻の記事を頻繁に見るようになりました。数年前は、一握りの怪しげな(すみません)著者の本が並んでいる程度でしたが、最近はいわゆるビッグネームの著作が目白押しです。
そういう意見の中で、以前から財政破綻否定派の方もおられました。私はそちら側の意見を読むことをして来なかったので、少し安心する材料を与えて欲しいと、否定派の最新の著作を読んでみました。でも私が求めていたものとは違ったようです。
結論から言って、この本を読んで理解できるのは「日本国債が"デフォルト"することはない!」という1点だけです。
著者は「国家破産」という言葉に明確な定義がない点を問題として指摘した上で、いわゆるデフォルトを国家破産の定義として採用しました。
確かにそれはその通りで文句の言いようがありません。題名を読んで気付くべきだったのですが、この本は "デフォルトしないこと" の説明が目的で、副次的な為替変動(円安)や物価水準(インフレ)による我々への影響についてはあまり検討していません(検討の方向性が違います)。
以下、気になった点を記載。
序盤、国内消化を基本とした日本のファイナンス状況は先に実質デフォルトに陥ったアルゼンチン、ギリシャとは異なるということ。アルゼンチンはドルペッグの固定相場制、ギリシャはユーロへの参加がデフォルトの理由であると。正しい認識だと感じました。
しかしここから様子が変わってしまいます。なぜ日本は破産しえないのか。日本は変動相場制であり、自国独自の通貨を有するため、たとえ日本からキャピタルフライト(ここでは国債の大量売却)が起こっても、為替の変動(円安)で国際収支の歪みが吸収され、また外貨準備が底をつくということもないため、デフォルトは起こらないとのこと。そして返済原資がないのであれば、高額紙幣をいくらでも刷ればよい。市場に資金が供給され一石二鳥だということでした。
しかし紙幣というものは日銀が刷るものであって、政府が発行するものじゃありません。通貨は日銀の負債ですが、その見合いとして日銀のバランスシートに適切な資産があるから、円の価値が保たれるのです。たとえ日銀が大量の国債を買い入れて国債の消化(もしくは返済)に貢献したとしても、その与信先の政府(財務省)の財政が火の車であっては、円の信認は保たれないのではないでしょうか。そうすると国際的に円の価値は大きく下落し、私の資産は国際的に毀損することになります(ただ自国通貨安でも対外債務が膨らみにくいというのは、日本が国内でファイナンスを行えていることの強みだとは思います)。
さらに複式簿記の概念の重要性を引き合いに、負債があるなら見合いの資産もある。ネットで見ると317兆円の債務超過(資産超過ではないですよ!)だから、900億円の債務残高なんて大げさだと主張されます。今後発行される負債についても同時に資産が計上されることが見落とされているとのこと。一部は確かにそうでしょうが、私には発行された負債に見合う資産が政府のバランスシートに残るとはとても思えません。国家予算はその多くが経費や国民への分配として政府の財布から消えてしまうのですから(国民の資産は政府の資産ではありません、少なくとも私はそう思っていますし、国に取られないためにどうすればよいのかを考えます)。
また流動比率が303%もあるから、「民間企業なら、倒産などまったく心配するレベルじゃない」とのこと。うーん、民間企業なら、誰も心配はしないですよね。流動比率は今後1年間の安全性を評価するためのものです。政府短期証券などを除き、国債は10年など長期を中心に大量発行されているのですから、今後1年の安全性だけを見られても困ります。また国家と企業では役割が違うと思いますので、国家財政と民間企業の健全性を流動比率で比較するのは意味ないと思います。
あとは‥。債券は「金利が安い=値段が高い」の原則がある。日本国債の利回りは10年前からずっと世界で最低水準、それでも取引が成立する。ということは日本国債は一番価格が高く、すなわち世界的に信頼されている。これはどうにも変です。ここで利回りと言っているのは名目利回りですが、名目利回りはリスクフリーレート+リスクプレミアムに分解できます。信頼されているか否かはリスクプレミアム部分の問題であり、景気低迷が続きリスクフリーレートが低く抑えられている日本で名目利回りが低いから信頼されているなんて意味がないのではないでしょうか。名目利回りでは信頼性は比較不能です。仮に市場が日本国債に大きなリスクプレミアムを求め始めたら‥。この説明の直後に著者が実質利回りの重要性を述べられているところが皮肉です。
終盤では、デフレ脱却のために市場への大量の貨幣供給を主張しておられます。これには私も賛成です。デフレが終わったら全てが解決するというのは楽観過ぎますが、デフレからの脱却は回復への第一歩になると思います。そのためにはまず機能不全の政治を変えなきゃ駄目だというメッセージには非常に同感します。
全体として、自分の資産をどう守るかという視点で読んでいた私には、少しピントがずれてしまっていたのは残念ですが、部分部分で新しい視点を取り入れることができました。