私は中堅電機メーカーで、技術系の部長を務め、現在はリタイアしている身だが、1エンジニアとして、本書を読んで、快哉を叫ぶところがあった。
それはISOが社員に創意工夫をさせなくするシステムであり、JIS規格の方が工業規格としては遥かにレベルが高いというくだりである。
また、日本が技術的に突出すると、欧米社会はルールを変更して日本を抑え込んでこようとする。
この指摘にもはたと膝を打って同意した。
「日本はニッポン!」というタイトル、そして「日本は日本の道をゆけ!」というこの本のテーマは、経営者・ビジネスマンのみならず日本の全てのエンジニアにも心して欲しい教訓である。
折角、現場の技術者がどんなに技術を磨いても、経営者がシッカリと舵取りをしてくれなくては一切の努力は水泡に帰してしまう。
私が重電系の技術者として現場で感じた事の1つは、日本のメーカー間の過当競争である。海外に発電機を売り込む現場にも、技術系の部長として営業の現場に立ち会ったが、常にライバルは日本のメーカーであった。常に日本のメーカー同士の過当競争による価格競争に悩まされて来た。しかし、今にして思えば、それは寧ろ良い時代だったと回顧する事も出来る。無理をしながらでも私達の世代は海外のマーケットにおける日本企業のシェアを伸ばし、そこにそれなりの生きがいを感じる事も出来た。
私が定年に近づく頃からそれまで賞賛されていた日本型経営なるものが一挙に批難され始めた。その事の当否はエンジニアとしての私には当時、理解ができなかったが今にして思えば日本企業の強さを根こそぎ奪おうとする欧米経済界の反撃であった事がよく理解できる。40年近くに及んだ私の現役時代を思い返してみると、最後は正にこの自信喪失に陥った日本企業の中で右往左往して志を成し遂げる事無く終わってしまったような悔恨の情にさいなまれている。
この本を読んで、私の勤めていた企業も含め、日本の経済界がどのように興隆し、どのようにバッシングされてきたのかを初めてマクロ的に展望することができたような気がしている。
確かに日本的人事には欠点もあったが、それなりに日本人のメンタリティにあった人間の能力を引き出す一つのシステムではあったと思う。現在の過度の競争社会に悩む後輩たちを見ていると、かつては私自身も批判することが多かった日本的人事システムも必ずしも悪くは無かったという事が理解できる。一番幸福な時代にいる時に、人間はその事に気付かないものなのであろう。
懐古談的な話しになってしまったが、50代後半と40代前半の二人の著者が、その年齢にも関わらず戦後の日本の経済史を大きな視点からバランス良く捉えている事には目を開かれる思いもしたし、又、好感も持った。
是非、技術系の人々にこそ、こういった本は読んで欲しいものである。
最近は、技術者出身の経営者も珍しくは無い時代になった。しかし、技術者出身だから優れた経営者になれるわけではない。技術者出身の経営者の欠点は、なまじ自説に固執し視野が狭くなるところである。昔、自分が夢をかけた技術などがあるととかくその技術に固執してしまいがちになる。時には技術者の話を良く聞く文化系学部出身者の方が技術の発展に対してバランスのとれた見方をする事もある。将来、技術者出身で経営陣に加わるであろう人達にも是非、一読を薦めたい本であると思った。