東郷氏の外務省を追われた後の真摯な仕事ぶりには、かねて敬意を持ち、著書を読んできた。
北方領土返還をコアとした日露関係についての論評は、異論ある方の著書も合わせ読むことで、戦後日本が取らざるを得なかった沈黙、そして、ソ連崩壊から始まった本当の乾坤一擲の外交、そして、それが無念にも・無残にも終わってからの迷走と、非常に注目される。
そして、その迷走の延長線上に、竹島・尖閣諸島と民主党政権下で起きた痛恨事があると、東郷氏は切々と説く。
学者にして元・外交官という矜持から言葉を慎重に選ぶ東郷氏に、これはウッテツケなツッコミとして保坂氏が、うまいリードをする後半の対談は、そこだけ読んでも十分楽しめる。東郷氏や学術的アプローチに馴染みのない方には、後半から読むことをお勧めする。
しかしまぁ、上記のような経緯の果てに、メドベージェフ訪問でかつてない劣勢に立った日本、しかし、プーチン大統領復帰での一縷の望みという部分が、本書読了直後に、プーチン氏が「北方領土問題は引き分けで」「これから試合開始だ」と発言したことで、正に具現化されていることには本当に驚かされた。
うがってみれば、東郷氏が一種のクレムリンのエージェントなのでは?と思うほどの、神がかった読みの的中である。
引き分けを、2島ではダメと朝日新聞も誤読しているが、本書を読めば、等面積分割といった経緯も踏んでの引き分け発言だろう。
早速に、コメントもしている東郷氏だが、本が1000円もせず読めることは本当に僥倖である。
正直、尖閣列島のくだりでは、氏のスタンスを弱腰とも感じる私だが、神予言的中を前にすれば、宗男・ラスプーチンとともに、表舞台から完全に追われた東郷氏を何かの形で起用する度量を民主あるいは自民に期待せずにはいられない。
(追記)プーチン発言から一週間を待たずに、野田総理は「2島では引き分けではない」と国会で発言。東郷氏らに非国民のレッテルを張り、何も進まず、いや、周辺国と対立するばかりの外交を是とする勢力の強さを窺わせる。まぁ、こうした洞察が出来るのも、氏の説があってこそなのだが。
とくに、森元総理には、ポスターの陰なんぞにコメントするヒマあるなら、自身が政治家としてライフワークとしたロシア外交で犠牲とした東郷氏の復権に一肌脱いで欲しい。