山を中心とした日本人の聖なる場所についての本。とても読みやすく、また著者の思想と美学が熱くこめられた文章が楽しい。日本の豊かな自然をめぐる描写と仏教をはじめ宗教の言葉の記述がくるくると反転しながらあらわされていき、私たちの暮らしているこの国の歴史と現在の奥の深さがよく実感できるようになっている。
紀伊半島や四国の霊場の神秘性も、奈良や京都の寺社の歴史的な重厚さもそれぞれに素敵なのだが、やはり最大の読みどころは、比叡山の「千日回峰行」と出羽三山の「秋の峰入り」の解説だろう。「修行」という実践のただなかにおいて、宗教が人間と自然とをむすびつける輝かしい時空間のすごさがよく表現されている。
著者は、大峯山脈を道場とする奥駈け修行との対比において、以上の二つの修行の特異性と魅力を語る。奥駈けが、毎日異なる峰、異なる谷を歩くのに対して、この二つは「円環運動」としての側面が強い。山の中のあちこちで苦行を行いながら、しかし同じお堂に戻ってくるのである。だから、毎日おなじ自然界の生命活動をくりかえしくりえし体感し内面化していく回峰行により天台僧は「本覚思想」をからだで理解し、また羽黒の修験者は、多様な修行を経験しつつもいつも元のところに戻ってくることで、地獄と天界を行き来し、人間と仏が自分のなかで循環していくことの真実に気づく。
この円環のなかでこそ、人間と自然が一体となり、生と死がそこで同居し、人類の歴史が起源から現在まで再びくりかえされるのだ。