神話・伝説をただストーリーをたどっただけでは見えてこないものが本書には説明されている。神の名、物の名、すなわち古語の発音・意味を説きほぐしてくれているので、納得がいく。
たとえば、食物神の死体に生じていた五穀を献上した神は、「天熊人」という名をもつが、この神名の「熊」は宛字であり、「くま」は「神に供える穀物」という意味の古語である。また、月神の名は「月読」と言い、「月齢を数える」の意を表していたが、近い発音の連想で、「月夜見」という名もできた。このように、古代の伝承には、物の性質をよく反映した名や、同音・類音の連想によったもの言いが多い。本書はそれを大切にして述べられている。
想像力が伝承を生み出す…景行天皇の婚姻伝説…印南/否び妻/犬。
伝承の世界を読む…須佐之男命の大蛇退治…奇し/櫛/酒。
伝承の深層を探る…鏡の呪力が蘇らせた男…鏡/大伴狭手彦/弟日姫子。
本書で取り上げている神話・伝説はほとんどが神・天皇にかかわるもので、長短織り交ぜて多岐にわたる。これが平安時代以降になると説話形態となり、人間的になる。その橋渡しになる「箸墓伝説」を本書終章で取り上げ、「神・神なるもの」と「人・人なるもの」との違いを考えさせられる。