河合教授は「安全神話崩壊のパラドックス」なる古典的名著でもって、世を覆いつつあった治安悪化不安が取り締まり方針の変更による軽犯罪(自転車窃盗)のカウントが加わったことに過ぎない虚妄であることを最初に世に問われたお方である。あれから5年、犯罪白書の転向をもってようやく公的には治安悪化を煽る言説に歯止めがかかった。そして満を持してここに河合教授の二の矢が放たれた。
今度は治安悪化の要たる「殺人」をその殺人の種類毎に細かく分析・考察を加え、本当に「凶悪な」犯罪を捜し求めるという筋書きがメインである。本当に心配すべき「殺人」事件を残すべく篩にどんどんかけ「落とされて」いく(というか、身も蓋もなさ具合に随所で今年最高の大爆笑をしてしまった)様に、これで「安心」を覚えなかったらば何に安心せよというのかという読後感を覚えること請負。
個人的にはケンカ殺人、バラバラ殺人、あとは死刑の意義に関する仮説の立て方が目から鱗でした。「心の闇」とか「社会の底が抜けた」とか「実存」とかいう空念仏は微塵も見られません。さすがにそれらの仮説に対する実証は示されていませんが、それはこれからの課題でしょう。とりあえず「治安」に関心ある人間ならば、この書を通じて何らかのインスパイアを受けられることと思います。